LEVIATHAN

リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

銀背復活第一弾! ネタかと思ってたら、ホントに銀背だよ!
早川書房で、スチームパンクで、『リバイアサン*1と聞くと、ブレイロックを思い出す人もいるかも知れないけど、全くの別物。

1914年、ヨーロッパではふたつの勢力が括抗していた。遺伝子操作された動物を基盤とする、英国などの〈ダーウィニスト〉と、蒸気機関ディーゼル駆動の機械文明を発達させたドイツら〈クランカー〉。両者の対立は深まり、オーストリア大公夫妻の暗殺につながった……。両親を殺した一派に追われる公子アレックと、空への憧れから男装し英国海軍航空隊に志願した少女デリン。ふたりの運命は、やがて巨大飛行獣リヴァイアサンで邂逅する! 奇妙なテクノロジーが彩る第一次大戦下の世界で、少年と少女の成長と絆を描く、ローカス賞受賞の冒険スチームパンク三部作、開幕篇。

巻頭の世界地図だけでもう掴みはOK。ベルリンの女の子に萌え(笑)


現在のスチームパンクブームにあって、いわゆるスチームパンクのイメージどおりの作品だと思う。
それ故、あらすじから既存のアニメなどに容易にイメージ補完可能……とスルーするのは早すぎる! 
あまりに魅力的な世界とストーリーテリング。しかも、ありがちに見えるのはヴィジュアルイメージだけで、舞台とキャラクター造形がその設定にしっかりと立脚しているため、途中で醒めることことなく世界を堪能できる。


クランカーのドレッドノート級陸上戦艦という響きだけでやられるんだけど、この作品をユニークなものにしているのが、対立派である生体工学の〈ダーウィニスト〉。リベットだらけのロボットに対するのが怪獣という時点でマイナス要素はないんだけど、主人公とも言える巨大飛行獣リヴァイアサンの存在感は圧倒的。それを軸に、出会うはずのなかった二人が友情を育み、同時に読者に両派の案内をする。
1914年のヨーロッパ情勢が、このSF的設定に置き換えられているのは上手いんだけど、個人的には、お互いの技術をキリスト教的におかしいと考えているのが面白い。


主人公も活き活きとしている。両親を殺されたオーストリア公子のアレックと英国海軍航空隊に入隊する男装のデリン、と身分も派閥も何もかも違う二人の友情と甘酢(笑)。彼らの目的が同時に物語の推進力にもなっている。また、二人が自分の持ってないものをお互い持っていると感じていて、それが成長につながるのも、ジュヴナイルとしてストーリーテリングは非常に巧み。
主人公以外のキャラクター造形がちょっとおとなしめだけど、バーロウ博士とヴァルガーは印象的。意地悪な剣術指南ってなんでステキなのかしら。


また、原著と同じイラストも、世界観の強い補強になっている。挿絵の多い小説は嫌いなんだけど、こういうざらついた絵柄は好きだなぁ。日本だとフーゴ・ハルとか(笑)


一気読み確実なんだけど、惜しむらくは三部作の邦訳が終わるの、1年後なんだよなぁ。しかも謎を残したまま、つづく! で1巻終わるし。