2014年度掲載翻訳短篇

翻訳短篇は以下。

「かわいい子」……オースン・スコット・カード
「ウィンター・ツリーを登る汽車」……アイリーン・ガン&マイクル・スワンウィック
「スシになろうとした女」……パット・キャディガン
「没入」 ……アリエット・ドボダール
「九万頭の馬」 ……ショーン・マクマレン
「否定」……クリストファー・プリースト(新訳)
「遊星からの物体Xの回想」……ピーター・ワッツ
「ウナティ、毛玉の怪物と闘う」……ローレン・ビュークス
「パッチワーク」 ……ロラン・ジュヌフォール
「鼠年」 ……スタンリー・チェン(チェン・チュウファン)
「異星の言葉による省察」 ……ヴァンダナ・シン
「釘がないので」……メアリ・ロビネット・コワル
「端役」……グレッグ・イーガン
「地図にない町」……フィリップ・K・ディック(新訳)
「パパの楽園」 ……ウォルター・ジョン・ウイリアム
「水」 ……ラメズ・ナム
「戦争3.01」 ……キース・ブルック
「聖ポリアンダー祭前夜」……R・A・ラファティ
「その曲しか吹けない――あるいは、えーと欠けてる要素っていったい全体何だったわけ?」……R・A・ラファティ
「カブリート」……R・A・ラファティ

今年も少ないなぁ。


お気に入りは、
「ウィンター・ツリーを登る汽車」……アイリーン・ガン&マイクル・スワンウィック
クリスマスの朝、目を覚ましたサーシャは何かがおかしいことに気づいた。
危惧を飼い犬に話しかけると、彼は「弟が危ない」と返事をした。
しかも、それはサーシャが知らない弟で、助けるには汽車でクリスマスツリーを登らなければならず……
合作の配分がどうなってるかわからないけど、漠然とした不安感や不気味さ、硬質な感じは、なんとなく納得w
よくわからないんだけど、それでも、ラストの涙は理解できるような。


「九万頭の馬」 ……ショーン・マクマレン
アナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞
二次大戦中、ブレッチリー・パークに天才数学者クレルモンを訪ねてきた役人。
彼は、ドイツがミサイルを作っている可能性があるのか教授に意見を聞きに来たのだ。
彼女は1899年に同じようなものを見たことがあると語り始める……
今月号では、これが一番のお気に入り。
美少女(かどうかは脳内補完)天才数学者が、メイドの格好してスパイするだけで、たまらんですよw
19世紀末に、巨大なミサイルが? というスチームパンクではあるんだけど、並行世界でないのは意外に珍しいかも。


「否定」……クリストファー・プリースト
〈ドリームアーキペラゴ〉シリーズ。
北の大陸にあるファイアンドランドの国境の村に駐屯する青年兵。
元文学青年だった彼は、自分の尊敬する作家が村にやってくることを知る。
『夢幻諸島から』の「フェレディ環礁」のエピソードのその後(?)
『夢幻諸島から』がガイドブックの体裁をとっていたため、あまり戦中(いちおう)らしい描写がなかったのに対して、この短篇はドンパチはないものの最前線を舞台にしている。
そのため、寒い国境線の哨戒は緊張感に溢れ、それを対照的にモイリータとの対話は暖かみがある。
しかし、やはり彼女もただならぬ空気を感じており、そこに剣呑な気配が見え隠れしている。
ラスト、主人公はモイリータの騙りに囚われたのか?
「拒絶」の新訳。


「遊星からの物体Xの回想」……ピーター・ワッツ
題名通りの内容。
遊星からの物体X ファーストコンタクト』よりもはるかに面白く、地球人とまるで生態も意識も違うエイリアンの一人称として面白い。
ただ、その割には思考がかなり地球人っぽいんだよなぁ。
それとも、地球人を取り込んだから、こうなったのかしら?


「ウナティ、毛玉の怪物と闘う」……ローレン・ビュークス
渋谷でカラオケを楽しんでいた〈サイコー戦隊〉隊長のウナティは、ゴジラ並みの巨大な毛玉に襲われる。
彼女はすぐさまロボットに乗って反撃するが……
カラフルなキャンディーが山積みにされてる感じ。
ストーリーは別に面白く無いんだけど、それを補ってあまりありすぎる、過剰なポップカルチャー、オタクカルチャーがチクロのように脳を刺激する。


「パッチワーク」 ……ロラン・ジュヌフォール
巨大な惑星オマルのホドキン族の検死医シズニーは、運ばれてきた遺体に奇妙なものを見つける。
同じような死体を何度か目撃し、ヒト族の友人で、刑事のムスラーフにそれを話すが……
〈オマル〉シリーズの短篇
この短篇が、本編に対してどういうタイミングで書かれたのかはわからないけど、お試し版としてはかなりいい塩梅。
短い中に、この世界の様子がわかるし、三つの種族の違いも自然と飲み込める。


「鼠年」 ……スタンリー・チェン(チェン・チュウファン)
中国作家。
逃げ出した、遺伝子操作され、巨大化したネズミを駆除する青年たち。
残酷さに、彼らは徐々に精神を病んでいく。
一方、ネズミたちは設計とは違う変化を見せており……
今まで、何度か中国SFは訳されたけど、あんまり面白いと思ったことないんだよね。
でも、これはなかなかゾワゾワする感じが気色悪いw
中国SFなのに、中国が覇者になってるわけでなく、現状とあまり変わってないのが、ディストピア的かも。
未だ世界の工場で、大学卒業しても職はなく、巨大ネズミはPM2.5を思い起こさせる。


「釘がないので」……メアリ・ロビネット・コワル
ヒューゴー賞受賞作
世代船で旅を続ける一族。
その全記録を管理しているAIのコーデリアが故障してしまう。
責任者のラヴァはなんとか修理しようとするが、そのさなかに秘密が明らかに……
AIがヴィクトリアンな女性のホログラフ、というのが作者の趣味だけでなくw、ちゃんと物語に意味がある。
未来で変化した常識は、現在の人間からするとタブーに近いんだけど、それを破るほうが彼らには非常識。
しかし、AIであるコーデリアが人間的な反応を見せる。
彼女が触媒となり、彼らの未来と我々が共有できる悲しみが炙りだされ、じんわりとした読後感を残す。


「水」 ……ラメズ・ナム
脳内インプラントを入れている近未来。
高額な製品は広告が出ないが、ほとんどが五感に訴える広告が出る無料タイプのインプラント
高給取りの男が、知り合いの女性を、広告圧力を高めて落とそうとするが……
サイバーパンクらしからぬ題名が、非常に強いサイバーガジェットになっていて、それだけでよく出来たSF.
今回掲載された作品では、個人的にはこれが一番、現在のサイバーパンクという印象。
ただし、30年前と違うのは、出てくる横文字や何をやっているのかがわかるんだよねw
これから世界の変革が始まるかもしれないし、描かれてない作品世界の周囲も想像でき、なかなか深みのある短篇。


「戦争3.01」 ……キース・ブルック
第三次世界大戦は始まった瞬間に終わった。
イスラム圏某国がネットワークを瞬時に掌握したのだ。
人々は脳内に流れてくる情報に打ちのめされるが……
ISISの存在する現在では、なんとも空恐ろしいストーリー。
しかし、主人公のように真実に気づいたら、それはそれで本当に戦争が始まっちゃうような……


特集では、「「ベストSF2013」上位作家競作」*1「非英語圏SF特集」*2「30年目のサイバーパンク*3
そして、なんといっても創刊700号*4


そして、忘れちゃならないのがミステリマガジン5月号*5! 〈ワイルドカード〉新作!