THE PLOT AGAINST AMERICA

『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが・・・』フィリップ・ロス集英社

もしも第二次大戦時に元飛行士で反ユダヤ主義リンドバーグが大統領になっていたら…。7歳の少年の目線で差別にさらされる恐怖と家族・民族・国家を描く、ロス最高傑作とも評される歴史改変小説。

リンドバーグといえば、大西洋単独無着陸飛行、とまず答えるでしょう。
息子が誘拐され、遺体となって見つかった事件を知ってるのはそれよりもぐっと減るかな。
さらに、彼がナチのシンパだったことを知ってる人はどれくらいいるだろう?


見た目も業績も、輝かしかったアメリカ的偶像である彼が、それとは真逆の政治を支持していたという事実は少なからぬ衝撃を受ける。
それを前提した歴史改変小説。


アメリカにとって、地理的にはまさに対岸の火事であるドイツ=イギリス間の戦争。
リンドバーグは、ドイツのユダヤ人を守るために、わざわざ戦争に巻き込まれるのか!? と演説する。
それにより、ユダヤ人である主人公たちを取り囲む街が、何事もなかった昨日までとは打って変わって反ユダヤの空気へと変化する。しかし、ユダヤ人以外の国民にとっては生活に変化はないんだよね。この断絶とシームレス感が恐ろしい。


しかし、これって、決して他人ごとでなく、例えば、「戦争するか、在日を国外退去させろ、どっちか選べ」と言われて、後者をスケープゴートにしない、と言い切れるだろうか?


本書は主人公が7歳の少年なので、余計な知識が混ざることなく、しかし、明らかに様子が変わっていく社会をフラットな視線で描かれている。