THE LITTLE BLACK BOX AND OTHER STORIES

『小さな黒い箱』フィリップ・K・ディック〈ハヤカワSF1967〉

謎の組織によって供給されるその金属の黒い箱は、別の場所の別人の思考へとつながっていた……。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』原型短篇である表題作、タイムトラベルをテーマにした後期の傑作「時間飛行士へのささやかな贈物」、近未来アメリカを描く政治風刺連作「待機員」「ラグランド・パークをどうする?」、書籍初収録作「ラウタヴァーラ事件」をはじめ、政治/未来社会/宗教をテーマにした全11篇を収録


・「小さな黒い箱」
・「輪廻の車」
・「ラウタヴァーラ事件」
・「待機員」
・「ラグランド・パークをどうする?」
・「聖なる争い」
・「運のないゲーム」
・「傍観者」
・「ジェイムズ・P・クロウ」
・「水蜘蛛計画」
・「時間飛行士へのささやかな贈物」

omni』に載ったきりだった「ラウタヴァーラ事件」がついに収録! 『omni』のアンソロジー出ないかなぁ……


前半が乗れず、う〜ん、と惰性で読んでいたんだけど、「待機員」でやっと暖気完了。火星人が攻めてきているのに、争点そこ!? っていうズレた感じがたまらない。続編である「ラグランド・パークをどうする?」では、もはや火星人は陰謀論扱いw
それ以降の作品も楽しめた。
PKD値が低い人間が解釈するのも何だけど、大局をスルーして、枝葉末節にこだわっているというか、そこにこだわることによって大局にも影響がある、という陰謀論的な印象。
また、陰謀論らしくいきなり飛躍するんだけど、その飛躍がSFに変換されているため、短編小説として成立している感じ。


収録作では特に「聖なる争い」が好きだなぁ。
スーパーコンピュータを一時停止させるために、歯車にねじ回し噛ませるのどかさはさておき、なぜ、単なる会社経営者がミサイルの標的になってしまったのか? という発端から、コンピュータの神学に進み、ラストはそれまでの展開を踏まえながらのハシゴ外し! バイバイン


楽屋落ちの「水蜘蛛計画」も楽しいし、現実を変えられるのか? そもそも今の自分達の存在は? というディックのイメージらしい、しかししんみりとした「時間飛行士へのささやかな贈物」もいい。