Despues de Lucia



『父の秘密』鑑賞

2012年・第65回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞した心理ドラマ。監督は、弱冠31歳で長編2作目となる本作を撮り上げたメキシコの新星マイケル・フランコ。母親を失った父娘がすれ違い、いつの間にか日常から逸脱していく姿を静かに描き出していく。妻ルシアを交通事故で失った喪失感から抜け出せないロベルトと娘のアレハンドラは、新しい土地でやり直すためメキシコシティへ引っ越してくるが、2人は心の傷を直視することができず、他愛ない言葉を交すだけの関係になっていく。アレハンドラは新しい学校で友だちもでき、楽しく過ごし始めるが、酔った勢いで関係を持った男子生徒に行為を盗撮されたことをきっかけに、いじめの標的になってしまう。父親にいじめを相談できないアレハンドラは、ある日突然姿を消してしまう。

車を運転しているシーンから映画は始まる。
何するわけでもなく、ただ運転してるだけなんだけど、何故か不穏なものを感じてしまう。
右後部座席にカメラが据えられ、斜め後ろから男が映っていて、フロントガラスも半分しか見えないことに不安を感じるのか。


その不穏は気のせいではなく、男は道の真中で車を置いてどこかに行ってしまう。
彼はその後も精神状態が不安定な様子を何度も見せる。
一方の彼の娘は、転校先で残酷ないじめの標的にされるが、父にはその素振りを見せようとしない。
それら張り詰めた空気をカメラは撮り続ける。


個人的にはケッチャムの作品に似ているという印象。
カメラは登場人物からちょっと離れた定点で無表情に彼らを撮影する。彼らがこちら(カメラ)を見ることはなく、正面を捕えるのも数えるほどしかない。
カメラにどのような種類の感情も含まれないため、凄惨ないじめも覗き見ているだけで、何もできないもどかしさに、観客自身の感情がストレートに心身を揺さぶる。


激しさを増すいじめの果てのラストの衝撃。
冷徹なカメラに映るのは、平穏なのか、もう壊れるものがない姿なのか。


ハメ撮り、ダメ! 絶対!