THE UNCOMFORTABLE ROOM

居心地の悪い部屋

居心地の悪い部屋

『変愛小説集』*1の3巻的な扱いかなぁ、と思いきや、なんともモヤモヤとした読後感のアンソロジー
結論はおろか、原因も展開すらも判然とせず、言葉にできない薄気味悪さだけが残る作品や不安になる作品が多い。しかし、このモヤモヤ感こそを楽しむ一冊であり、題名に偽りなし!


収録作品
・「ヘベはジャリを殺す」……ブライアン・エヴンソン
部屋の中でまぶたを縫い合わされたジャリ。
しかし、ヘベは次の手順を忘れてしまい……
巻頭を飾るにふさわしい作品。
まさに「居心地の悪い部屋」の物語で、そこで振るわれる意味不明な暴力には笑いさえ感じてしまう。
目への不条理な暴力は『アンダルシアの犬』*2を想起してしまった。そういう意味でも、このアンソロジーの方向性を示している。 


・「チャメトラ」……ルイス・アルベルト・ウレア
メキシコの戦場で、頭を撃ち抜かれた兵士。
親友が、なんとか連れて逃げるが、包帯を巻いたその頭から甲高い音が……
汽車は笑っちゃったんだけど、その後に続くのが非常にグロテスク。
臓物というか、胎児というか、本来隠されているものが地面にぶちまけられる。


・「あざ」……アンナ・カヴァン
子供の頃、いじめられているわけでもないのに避けられ、成績もいいのになぜかテストでは芳しくない同級生がいた。
彼女には、紋章のようにも見えるあざがあったのだが、親しくはなれずそのまま卒業。
大人になり、旅行先に奇妙な刑務所があり……


・「来訪者」……ジュディ・バドニッツ
両親がやってくる。
しかし、途中でかかってくる電話は、迷ってどこともしれない場所にいるというものばかり。
そのうち、周りの様子も不穏なものになっていき……
バドニッツらしい、イライラさせられる母親からの電話。しかし、だんだんに両親がいるのがトワイライトゾーンになっていく不穏さ。
一方で、彼らを待つ娘の現実もねじまがっていく。


・「どう眠った?」……ポール・グレノン
お互いの眠りの質を語り合う二人。
その内容は建築学のようで……
なんかBLものとして読んでしまった(笑)


・「父、まばたきもせず」……ブライアン・エヴンソン
娘が死んでいるのを見つけた農夫。
しかし、妻には告げず、なぜか干し草の下に隠してしまう。


・「分身」……リッキー・デュコーネイ
両足が取れてしまった女性。
その内、足から脚が伸びてきて……


・「潜水夫」……ルイス・ロビンソン
スクリューに網が絡まり、沖で立ち往生してしまった男。
泳いでダイバーを探しに行ったが、応じてくれた男はどうも好きになれず……
このアンソロジーの中ではいたって普通の話なんだけど、内向的な都会っ子にとっては、潜水夫の馴れ馴れしい態度に非常に居心地悪くなる。
むしろ、奥さん寝取られたり、頭を割って海に沈めてくれたほうが落ち着く。


・「やあ! やってるかい!」……ジョイス・キャロル・オーツ
暑苦しいほどさわやかなマッチョマン。
ジョガーを見つけると、「やあ! やってるかい!」と声をかけていく。
どちらに、居心地の悪さの比重を掛けるべきか迷う作品。


・「ささやき」……レイ・ヴクサヴィッチ
別れた恋人から、イビキがひどいと告げられた男。
テープレコーダーを仕掛けると、知らない男女の声が入っていた……
以前読んだヴクサヴィッチの作品に比べると、変さは薄いんだけど、これ怖いなぁ。


・「ケーキ」……ステイシー・レヴィーン
体を丸々とさせたい女性。
部屋中に棚をしつらえ、そこにケーキを並べ、食べようとするが、外から視線が……


・「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」……ケン・カルファス
大リーグのトリビア。そこに隠された物語。
フィールド・オブ・ドリームス』に通ずる、大リーグ・ファンタジー
しかし、そこには勝者だけでなく、砕け散った敗残者の夢や、誰の記憶からも消えた幻が埋まっている。
あとがきにある、セントルイス・ブラウンズの小人バッターがもう、ファンタジーだよね。
そう考えると、やはり大リーグ自体が異世界なのかなぁ。


相変わらず編者の選択眼は確かでみんないいんだけど、特にお気に入りは、「ヘベはジャリを殺す」「来訪者」「潜水夫」「ささやき」「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」あたり。
ヴクサヴィッチ、短編集まだ〜