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FUNGI-菌類小説選集 第Iコロニー(ele-king books)

FUNGI-菌類小説選集 第Iコロニー(ele-king books)

『FUNGI-菌類小説選集 第Iコロニー』オリン・グレイ&シルヴィア・モレーノ=ガルシア編〈Pヴァイン
きのこテーマのSF/ホラー・アンソロジー

収録作品


「菌糸」ジョン・ランガン
「白い手」ラヴィ・ティドハー
「甘きトリュフの娘」カミール・アレクサ
「咲き残りのサルビア」アンドルー・ペン・ロマイン
「パルテンの巡礼者」クリストファー・ライス
「真夜中のマッシュランプ W・H・パグマイア
「ラウル・クム(知られざる恐怖)」スティーヴ・バーマン
「屍口と胞子鼻」ジェフ・ヴァンダミア
「山羊嫁」リチャード・ガヴィン
「タビー・マクマンガス、真菌デブっちょ」モリー・タンザー& ジェシー・ブリントン
「野生のキノコ」ジェーン・ヘルテンシュタイン

こういうSFアンソロジーを待っていた!


H書房もTS社も、最近出してくれる短編集やアンソロジーは往年の作品ばかり。それだけに、マスターピースだからハズレはないんだけど、正直、最近の作家や作品を読みたいんだよね。
そんな中、本書ですよ!(原著は2012年)


ラヴィ・ティドハーとジェフ・ヴァンダミアの名前が並んでるだけでも嬉しいんだけど、それが菌類アンソロジーとあっては、良い予感しかしないってもんよ。
しかも、編者は『マタンゴ*1を愛しているというのだから、ますます見過ごせない。


アングロサクソン系には、きのこ恐怖症の人が結構いるそうな。
個人的には、煮る・焼く・炒める、と食材として大好物だけど、蓮コラにも通じる、生理的嫌悪感がわきがあるのはわからんでもない。
「キノコ」はありふれているけど、何故かそれだけで非日常感があるんだよね。妖精が座っていたり、びっしりと船内が覆われていたり、食べてトリップしたり……
キノコ愛好者にも、恐怖症にもオススメのアンソロジー


お気に入りは、
「菌糸」ジョン・ランガン
久々に父親の様子を見に行くが、姿がない。
地下室に降りていくと……
強烈な異臭とぬるぬる、胞子が文字の間から吹き付けるかのよう。
直球の菌類ホラー。


「白い手」ラヴィ・ティドハー
『夢幻諸島から』*2に感触が近いキノコ人類学小事典。


「甘きトリュフの娘」カミール・アレクサ
キノコ潜水艦で深海探査に赴いた青年。
しかし、巨大魚に襲われ、海の藻屑と消えようとしていた……
ノーチラス号vs.ダイオウイカばりの危機に見舞われていて、寄るとパニックの艦内だけど、カメラが引くとキノコがプカプカ波間に漂ってるだけ、という絵面が目に浮かぶw
伝染るんです。*3のしいたけで補完されちゃって、なんか笑っちゃう。


「パルテンの巡礼者」クリストファー・ライス
パルテンというキノコを摂取すると、異星の大地に降り立つ幻覚を見られる。
実際にそこにいるとしか思えず、その世界さらに知ろうと、摂取を続けるが……
職も家もなく、楽しいのは幻想だけで、次第にそこにのめり込んでしまう、現実の社会問題をなぞるキノコ・コズミック・ホラー。


「ラウル・クム(知られざる恐怖)」スティーヴ・バーマン
人間をゾンビ化するキノコによって南米の村を支配するマッド・サイエンティスト、という映画シナリオ。
ワグナーの「プラン10・フロム・インナースペース」みたいなフェイク映画短篇は好物ですよ。


「野生のキノコ」ジェーン・ヘルテンシュタイン
チェコからの移民二世の女性。
父はキノコ採りの名人で、ある日キノコを探しに出たまま帰らず……
本書で唯一SF/ホラー的な要素のない作品。
『昼の家、夜の家』*4に感触似てるなぁ、と思ったら、あちらもチェコポーランド国境地帯のキノコ小説でした。
西欧作家によるキノコは心までもが侵食されてしまうようなおぞましい描写だけど、東欧作品のキノコは美味しそうだよね。


原著を分冊してるので、2巻もぜひ!