THE ORPHAN’S TALES : IN THE CITIES OF COIN AND SPICE

スルタンの皇女は婚礼の日を迎えようとしていた。皇女は、魔物と呼ばれる女童が弟に物語を語って聞かせた〈庭園〉で、結婚式をあげたいと望んだ。その日 〈庭園〉は婚礼のごちそうと人々であふれた。宴を抜け出した童子は隠れひそんでいた女童のもとに逃げこみ、そして再び瞼に書かれた物語は始まる……。万華 鏡のなかの世界。摩訶不思議な謎の宴。飽くことなく語られた魔物の物語は、すべてが最後に収束し、ここに大団円を迎える。

ビブリオバトルしたら、防御力・攻撃力ともに『紙葉の家』*1に並ぶ容積を誇る『孤児の物語? 夜の庭園にて』*2のつづき。いや、2冊あるからこちらが上か……
という『プラモ狂四郎』的物量バトルではないですか、そうですか。


その大きさ(と値段)に怯む小説だけど、内容的にはするすると引き込まれる。
不可思議なエピソードが入れ子入れ子の……と連なっていく構成は前巻と同様。
読み始めた瞬間に各エピソードに囚われ、初めからその世界にいたかのような錯覚を覚えるほどそれぞれが魅力的。前巻がヨーロッパや大西洋の雰囲気があったのに対して、今回はどこともしれぬ異形の都市やアジア的な異世界が女童の瞼に広がっている。様々な知識が紋様として現れる蜥蜴、死体を貨幣に鋳造する都市、花を育てる名人の河童、竜になろうとする金魚、蜘蛛の仕立屋、檻に閉じ込められたジン……どこまでもどこまでも連れて行かれる。


今回は途中から語り手が皇子となり、物語を読むことはその一部となることを改めて教えてくれ、また、彼の姉の言葉は物語に託された希望やそれが持つ力を教えてくれる。


入れ子がどこまでも続き、一番奥が閉じられると次々と上のレイヤーも閉じられて、一気に女童と皇子がいる庭園まで引き戻されるのも前作同様。しかし、今回は、蓋が閉じられたはずの物語は濁流のようにそこを突き進みながら庭園さえも飲み込み、語り手と物語を分けるレイヤーは判別がつかなくなってしまう。
そして彼らは、また新たな一頁となって、誰かに語られるのを待っている。


思う存分物語を堪能させて頂きました。