THE ORPHAN’S TALES : IN THE NIGHT GARDEN

孤児の物語 I (夜の庭園にて) (海外文学セレクション)

孤児の物語 I (夜の庭園にて) (海外文学セレクション)

昔ひとりの女童がいて、その容貌は糸杉の木と水鳥の羽毛を照らす新月のようであった。彼女は魔物と呼ばれ、おそれられ、スルタンの宮殿を取り巻く庭園で野生の鳥のように暮らしていた。そこに訪ねてきたのはスルタンの息子。女童は自らの瞼に精霊によって記された物語を彼に語って聞かせる。つぎつぎと紡ぎ出され織り上げられてゆく、物語の数々。合わせ鏡に映しだされる精緻な細密画のような、果てしない入れ子細工の世界。

話が聞きたかったら、庭園までやってきて……


少女が語る物語中のキャラクターが語る物語中のキャラクターが……と『千夜一夜物語』と同じ構造。


しかし、そこに広がる物語世界は、既訳短篇*1と同様に、細部は見覚えあるのに、全体的には全く未知の神話大系。
入れ子構造は、そこに収まった物語が面白くないと効果は大きく削がれるけど、女童が語る物語の数々はどれもすこぶる魅力的。
魔女と鵞鳥の娘、人間になった白熊、党に閉じ込められた異形の姫、火の鳥とかぼちゃの娘、穴を育てる母、他人の身体をまとう不死の種族、無数の塔が立つ宗教都市、隻眼の種族とグリフォンの因縁、腹に口がある女予言者……


次々と展開していく物語に、一つ前の物語を忘れさせるほど引きこまれ、今がどのレイヤーにいるのか見失う。ある物語では主役でも、別の物語では敵として語られていたり、別の視点の物語があったり、人生同様、全てのエピソードは相対的。
非常に重層的であると同時に、以前登場したキャラクターが全く違う話で出てきたり、いくつかのレイヤーを貫いて存在するキャラクターがいたり、女童が語る世界は極めて立体的な構造をしている。
また、女童がいい所で口をつぐむため、どんどん潜っていった物語世界から一気に表層まで引き戻され、王子同様「続きは!?」と言いたくなる(笑)


さらに、一番外側である、女童と王子のいる宮殿も描写は少ないもののドラマが存在し、王子の女童に対する甘酢な想い、王子に厳しい姉など、そちらの行く末も気になる。


続きもあるそうなので、早く、夜の庭園に戻りたい。
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞を取っているだけに、各物語は、女性の強さや生き方など、フェミニズム色が強いんだけど、エピソードや物語世界に迷っていく構造の面白さはそれとは別で、オススメ。