Slowly, Slowly, in the Wind

風に吹かれて (扶桑社ミステリー)

風に吹かれて (扶桑社ミステリー)

「頭の中で小説を書いた男」を勧められたので着手。

一度も活字になったことのない本を十四冊書いた男の生涯を追った「頭のなかで小説を書いた男」。庭の池にはびこる蔓草の恐怖を活写した「池」。わからず屋の隣人に殺意を抱いた冷徹な男の犯行とその皮肉な結末を描いた「風に吹かれて」。救いのない結婚生活の悲劇を乾いた目で見つめた「またあの夜明けがくる」。そして蝋人形館の魅力にとりつかれ、血まみれの惨劇をひきおこした若者の物語「ウッドロウ・ウイルソンのネクタイ」など、多様なテーマで人間の存在に迫るハイスミス中期の傑作短編集。


 収録作品
・「頭の中で小説を書いた男」 The Man Who Wrote Books in His Head
・「ネットワーク」 The Network
・「池」 The Pond
・「一生背負っていくもの」 Something You Have to Live With
・「風に吹かれて」 Slowly, Slowly, in the Wind
・「またあの夜明けがくる」 Those Awful Dawns
・「ウッドロウ・ウィルソンのネクタイ」 Woodrow Wilson's Neck-Tie 
・「島へ」 One for the Island
・「奇妙な自殺」 A Curious Suicide
・「ベビー・スプーン」 The Baby Spoon
・「割れたガラス」 Broken Glass
・「木を撃たないで」 Please Don't Shoot the Tree

パトリシア・ハイスミスというと、一般的には『太陽がいっぱい*1の原作者として有名なのかな。
でも、個人的には『11の物語』*2しか読んでないんで、どんだけかたつむりが好きなんだと、というイメージのみ(笑)
それと、一見普通なんだけど、何かが決定的に壊れた人々を描いた作品が多い。それが、なんともイヤな読後感につながっている。


お気に入りは、


・「頭の中で小説を書いた男」 
作家志望の男。
頭の中で完璧に組み立て、それ故にタイプライターで打つのが面倒になってしまう。
そのまま、62歳で亡くなるまで、14冊の長編を頭の中で書いていくことになる……
小説好きなら、同じようなことをしてる人は少なくないんじゃないかなぁ(笑)
だから、確かに常軌を逸しているけど、働いていないというだけで、この主人公はキチガイとは呼べない。
むしろ、フォリアものとして、よくできていると思う。


・「ネットワーク」
隣人づきあいのない、都市暮らしの人々が、お互い支えあおうと電話を通じてネットワークを作っていた。
メンバーの甥が就職のために町に出てきたので、助けてあげようとするが……
この話は、むかつくな〜(笑)
主要人物に、悪人は出てこないし、悪意もないんだけど、この世話焼きがホントに嫌。
ほっといて! って感じ。


・「池」
引っ越してきた母子。
庭に池があり、そこに蔓草が繁茂していた。
刈ってもすぐ生えてきて、池に放した魚も絞め殺してしまい……
スフランみたいな怪獣モノ、と言えるかな?
それにしては、かなり後味悪し。
同じ内容でも、ホラーだと、こういう味にはならないような気がするんだよね。


・「ベビー・スプーン」
詩人を目指す教え子に金を貸したり、世話をしてあげている教授。
ある日、妻が大事にしているスプーンがなくなり、彼が売るために盗んだのではないかと考えるが……
この、物分かりがいい人ぶった、手の差し伸べ方のムカツキが、ハイスミスは本当に上手い。


・「木を撃たないで」
近未来。
ある日、木から爆発するきのこが無数に生えてきて……
わかりやすいエコSF。あまり意地悪さはないかな。