Kynodontas

『籠の中の乙女』鑑賞



2011年アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品で、日本公開の気配もDVD出る気配もないなぁ、と思っていたら、こんな邦題で始まってました。原題どおり「犬歯」にかけて欲しかったなぁ。


「「海」という単語は、革のソファのこと」という不可解な録音テープから物語は始まる。


高い塀に囲まれた屋敷で育てられる三人兄妹。
彼らは外の世界をまるで知らない。
外には「ネコ」という凶暴な人食いの怪物がいて、出られるのは車に乗った父だけ。
犬歯が生え変わったら、外に出られると教えられているのだが……


あらすじだけだと『ヴィレッジ』*1というか、「びっくり箱」*2のような「ノアの方舟」型の物語を連想するけど、それらの作品がクライマックスに外の世界の真実を持ってくることに対して、こちらは早々に現代だとわかるし、主眼がそこに置かれていない。父は工場の経営者(?)なのだが、なぜ彼が家族にそんなことをしているのか、はっきりとは明示されない。


家族を守れるのは大黒柱の自分だけ、という異常な父権の思想を持っており、外を連想させたり、性的な単語を教えないようにしていることから、子供たちを純粋に育てようとしているのかな、と読み取れなくもないんだけど、双子と犬を生む件やヘッドホンしながらのセックスなど、子供の教育以外でも、言動がおかしい。そもそも、外のこと教えたくないなら、「海」とか「遠足」という単語自体教えなければいいのに。


深読みすれば、閉塞し、自身ではもうどうしようもないギリシアやユーロ圏のメタファー、ともとれるけど、そんな難しいこと考えず、ジュディ・バドニッツあたりの小説に通ずるヘンな話としてオススメ。
変すぎて、笑っちゃうシーン数多し。『Fly Me to tha Moon』のお父さん訳が超好き。ただ、けっこうグロテスクやショッキングなシーンもあるので、ちょっと注意。あと、いい加減ぼかし邪魔なんですが。


また、「映画の魅力」を非常に強く表した映画でもあって、そのシーンは思わず笑っちゃう。特に『ロッキー』はやるよね?(笑)たぶん、5本の映画が出てくるんだけど、「ブルース」と呼ばれて振り返るのと「娘を八つ裂きにしてやる」という台詞が、なんなのかわからず。70年代後半〜80年台の作品だと思うんだけど。


挿入曲はなく、カメラも定点カメラのように動かないんだけど、それが、全てを支配したい父の意志を表しているようでもあり、かなりの緊張感が強いられる。しかし、ラスト近く、唯一カメラが動きを見せるシーンがあり、映画によって外の世界を知ってしまったキャラクターの意思が感じられる。でも、あのあとどうなるんだろうなぁ……


個人的には、今年ベスト級のお気に入り。