TALES FROM OUTER SUBURBIA

遠い町から来た話

遠い町から来た話

ショーン・タン最新作。


『アライバル』*1『レッドツリー』*2と違い、今回は短篇集。
同じ町を舞台にした連作というわけでなく、郊外のどこかのお話、という解釈でいいのかな。
また、既訳作が絵がメインだったのに対して、今作は字が多い。しかし、そこに表されるヴィジョンは、けっして期待を裏切らない。無論、奇妙な風景、奇妙な生き物は健在。


個人的には『ビッグフィッシュ』*3を観た時と似た感触。
本当に空き地に水牛がいたのかも知れないし、宇宙人の留学生が来たのかも知れないし、町が本当に切れているのかも知れない。もしかしたら、水牛ではなく浮浪者で、宇宙人ではなくアジアからの留学生で、単に町の途中で歩くのに疲れただけかも知れない。
ショーン・タンの絵描くファンタジーはこちら側と地続きのどこかではなく、薄い膜を隔てているんだよね。その膜を破れば現実が視えるかも知れないけど、その行為は重要ではない。虚実の膜に覆われていようとなかろうと、そこから伝わってくる楽しさ、寂しさ、驚きは本物であり、現実が見えたとしても感動は減じない。今回は字が多いことによって、この膜の効果を非常に高めている。文章だけの印象と、そこに添えれれた絵とのギャップ。そのギャップがファンタジーの源。


お気に入りは、
「水牛」「エリック」「お祖父さんのお話」「名前のない祝日」「ぼくらの探検旅行」あたり。特に、絵の効果を最大限に利用した「エリック」は涙腺に来る。
「遠くに降る雨」「記憶喪失装置」「ペットを手作りしてみよう!」などは、タイポグラフィでしっかり遊んでくれていて素晴らしい。「記憶喪失装置」の周りの記事の希望のなさと言ったら。


他の作品の邦訳も是非!