THE MYSTERIUM

ミステリウム

ミステリウム

『ミステリウム』エリック・マコーマック国書刊行会
マコーマック、待望の長篇!

小さな炭坑町に水文学者を名乗る男がやってくる。だが、町の薬剤師の手記には、戦死者の記念碑や墓石がおぞましい形で破壊され、殺人事件が起こったと書かれていた。語り手である「私」は、行政官の命により、これらの事件を取材することを命ぜられるが、その頃、町は正体不明の奇病におかされ、全面的な報道管制が敷かれ、人々は次々に謎の死をとげていた。真実を突き止めようと様々な人物にインタビューをする「私」は、果たしてその真実を見つけることができるのか……。謎が謎を呼ぶ、不気味な奇想現代文学ミステリの傑作!

マコーマックの読者は、否応なしに語り(=騙り)の聞き手となる。
そこでは虚実の判断はできず、繰り出される奇妙な物語に身を委ねるのみ。
他の作品に比べると、ミステリの骨格がある分、奇想具合は少ないけど、突飛ながら生々しい奇妙な物語の奇妙な作中作、という入れ子構造は健在。しかも、いつものように信用できない語り手なのだから、ミステリの土台である〈解くべき謎〉さえもあやふやに。
ミステリとしては「誰が、なぜ、どうやって」と普通なんだけど、まさに虚実皮膜で、そのどれかを嘘か本当かと確定すればたちまち全体像に矛盾が生じる。終盤で言われるように「欺かれるのはじつに簡単」であり、全ては記された言葉や思い描いているイメージを勝手に見ているに過ぎない。


以下ちょっとネタバレ。


唯一、発症しないエーケンだけど、インタビューで語っていることが病状の表れなのでは? ただ、その真偽は見分けられないし、カークが第一感染者だとしたら、彼のメモも信用できな。そもそも、全てがマックスウェルの病状が書かせているものとか。
もっとメタに考えるならば、度々記されるにおいこそが核心で、それは冒頭で言われるように本当にインクと紙のにおい。それに気づいた人間は、同時に自分たちの世界が紙に記されたものと気づいてしまうがゆえに崩壊してしまう。図書館の破壊や言語障害の病状はそれを表しているのでは?


変な話好きは読んでるだろうけど、それでもオススメ。
あれ? このにおいは……