MOON CALLED

裏切りの月に抱かれて (ハヤカワ文庫FT)

裏切りの月に抱かれて (ハヤカワ文庫FT)

『裏切りの月に抱かれて』パトリシア・ブリッグズ〈ハヤカワFT466〉
『緑の瞳のアマリリス』『サンシャイン&ヴァンパイア』と懲りずに、ロマンティックが止まりませんことよ。

自動車工を営むマーシィは、自在にコヨーテに変身できる“ウォーカー”。ある日、訳ありで困っている新人狼の少年を雇う。マーシィの隣人であり、付近を人狼を束ねるアダムに彼を預けるが、何者かの襲撃により、少年は殺され、アダムは重傷を負い、彼の娘も誘拐されてしまう。マーシィは、幼い頃に育ててくれた人狼の長の群れへと向かう。そこで彼女は、かつて愛していたサミュエルと再会し……

憎からず思っているけど恋人ではない、とか、どっちを選ぶか決められない三角関係、とかもっとロマンス成分を前面に出しているのかと思いきや、途中のフラグ(笑)は特に気にならず、それらは最後の方で出てくるくらい。
アーバン・ファンタジィとして、けっこう面白い。これはこれで話は完結しているし、少なくとも、〈ドレスデン・ファイル〉、〈魔女探偵レイチェル〉よりは、よっぽど続刊希望。
舞台は現代で、実は魔法的存在が人間の影にずっと潜んで生きてきた、というのはよくある設定だけど、隠し通せなくなりつつありって、まず下級妖精がカミングアウトし、人狼も発表すべきか否かを迷っている、というのがユニーク。彼らがアメリカに渡ってきた理由も上手く考えられている。ブリッグズはもともとファンタジー畑の人だから、この辺の設定はしっかり作り込まれている。
また、キャラクターもそれぞれ立っていて、短い中に性格や二面性が描かれている。個人的には、トニーにもっと活躍して欲しい。
ストーリーは、人狼ならではの犯罪理由で、異世界ミステリとして及第点かな。ただ、リリーを操ったのがうやむやにされてるような……
極端にロマンスに偏らず、この調子ならば続きも期待。