A TOUCH OF STRANGE and other stories

『不思議のひと触れ』シオドア・スタージョン河出書房新社)読了。


スタージョンと言えば、スタージョンの法則が有名。
曰く「あらゆる物の九割はクズ」というもの。
オタクなら、覚えておいて損はないお言葉(笑)


去年末から刊行された奇想コレクションシリーズの第2弾。
今のところ、外れなしで、 バラエティに富んだチョイスだし、オススメ。
これで興味が出たら長篇を、という理想的な流れが作れると思う。


さて収録作品。
『高額保険』
『もうひとりのシーリア』
『影よ、影よ、影の国』
『裏庭の神様』
『不思議のひと触れ』
『ぷわん・ばっ!』
『タンディの物語』
『閉所愛好症』
『雷と薔薇』
『孤独の円盤』


短編集はたいてい、半分くらいはイマイチ面白く感じないんだけど、
この本はみんな良かった。


『高額保健』はテビュー作。
ショートショートのミステリ。
これがデビュー作か……うまい。
紐の縛り方がやけに詳しく書いているところが、スタージョンらしいなぁと思った。


『もうひとりのシーリア』
男は、アパートの全住人の部屋にこっそり入りこみ、
その生活の全てを知るのが趣味だった。
ある日、シーリアという女が転居してきて、
いつものように忍びこむが、部屋には何もなく、
ただ紙の束が入った鞄があるだけ。しかも生活の気配がまるでない。
そこで、天井裏に潜み、その生活を見てみると……
彼女の正体はなんなのか? 
女の孤独さが痛々しい作品。


『影よ、影よ、影の国』
継母に冷たく扱われている少年。
おもちゃも取り上げられてしまうが、しかし、彼は影の国で遊ぶ術を持っていた。
誰でも、ガキンチョのとき、同じような夢想の経験があるのではなかろうか?
そんな記憶を呼び起こされる作品。
巻末の解説にもあったけど、
内容的にはブラッドベリと同じような感じなんだけど、
ブラッドベリがノスタルジーを感じさせるのに対して、
スタージョンのそれは、現代の児童虐待みたいに見えるんだよね。


『裏庭の神様』
ついつい妻にウソをついてしまう男。
彼の趣味は裏庭の庭造り。
ある日、そこからいような人型が掘り出される。
それはラクナと呼ばれる超古代の神だった。
お礼に、言ったウソが本当になるようにしてやろう、といわれ喜ぶが……


『不思議のひと触れ』
人魚と出会った、平凡な青年。
月の出に岩場で待ち合わせをしていたのだが、
そこにいたのは、やはり男の人魚と出会った平凡な女性。
おずおずと会話を始める二人……


『ぷわん・ばっ!』
ジャズバンドを率いる男。
彼はドラムで、そこそこ売れてきて高飛車になっていた時、
イマイチ盛り上がらないステージで、
貸し船屋の少年に叩かせると、彼の才能は本物だった!
しかし、それが気に食わない。
メンバーは少年の肩を持つようになり、
業界の大物が来る日にこっそり彼に叩かせようとするのだが……
SFやファンタジーではなく、ジャズ小説。
けっこう好きです。


『閉所愛好症』
ちょっと引きこもりがちなコンピュータオタクの兄、
社交的で押しの強い宇宙士官候補生の弟。
そこに、物凄い美女が現れる。
彼女は兄に不思議な話を始める。
映画『スターファイター』に通じる、というかあれの原案みたいな作品。
オタク万歳!て感じ。きっといいことあるよ(笑)


『雷と薔薇』
アメリカは各国から核攻撃を受け、死につつあった。
しかも、その放射能はいずれ北半球も滅ぼすことになるだろう。
なぜか、アメリカは一発も報復攻撃をしなかった。
ある軍事基地にいた隊員たちも次々と精神を病み、死んでいく。
そこに、国民的スター、スター・アンシムが慰問にやってくる。
その意図に気付いた主人公は……
おそらくSF史上初の核破滅ものでは、とのこと。
渚にて』と同じように、逃げられない破滅を前にして、
人間はあそこまで美しくいられるのか?
人間ならばそうあるべき、ということなんだろうな。 


『孤独の円盤』
男が浜辺で自殺しようとしている女性を助ける。
彼女は世界で一番有名な女性。
ある日、彼女は小型のUFOと接触する。
それ以降、あらゆる機関から尋問され、
何も受け取っていないと訴えても信じてもらえず、
常に周りからは好奇の目で見られる。
自分の気持ちを瓶に入れて流しても、全て回収されてしまい、
自分を必要としている人間はいないと絶望したのだ。


特にお気に入りは、
平凡な感想だけど、『不思議のひと触れ』と『孤独の円盤』かな。
スタージョンの作品は、痛いほどの「孤独」と「仲間」と言うのがテーマになっている。
この二作品は、その一人は寂しい、と言うのが色濃く出ている作品。
しかも、ラストはほっとする。 
すべてSFガジェットをどうこうする作品ではなくて、
SFガジェットによって引き起こされる人間模様が描かれている。
だから、UFOや人間に似た何かとかが出てきても、それの正体を解くのは二の次。
そこに変な奇妙さを感じるんだろうね。


ちなみに、スタージョンの法則は1953年の世界SF大会でのスピーチの一節。
では、全文はどうだったかと言うと、要約すれば、
「SFの90パーセントはクズだけど、それを言うなら、どんなものでも90パーセントはクズで、
残りの10パーセントが重要だ。そして、SFの残りの10パーセントは、
他のどんなジャンルの小説にだって引けを取らない」
というものだったそうだ。
「90へぇ」ですな(笑)
全部聞くと、普通のこと言ってるのね。