MR. PEANUT

ミスター・ピーナッツ

ミスター・ピーナッツ

結婚して13年、ゲーム・デザイナーで小説家の卵のデイヴィッド・ぺピンは妻のアリスを深く愛しながらも、妻の死をくり返し夢想せずにはいられない。そしてアリスは不可解な死を迎え、デイヴィッドは第一の容疑者となる。アリスの謎の死を捜査する刑事二人も複雑な結婚生活の経験をもつ人間であった。ウォード・ハストロール刑事は自分の意思で寝たきりとなる妻と静かな闘いを続け、かつて医師であったサム・シェパード刑事は数十年前、妻の惨殺について有罪判決を受け、のちに無罪と認められた過去がある。 デイヴィッド、ハストロール、シェパードの人生ドラマがヒッチコック的サスペンスを高めながらエッシャーの絵のように絡み合うなか、メビウスという名の不思議な殺し屋があらわれる。「おれが小説を終わらせてやる」そして現実とフィクションは浸食しあい、読者を迷宮に誘う――愛と憎しみ、セックス、不倫、妊娠、摂食障害鬱病など結婚生活における諸問題をユーモラスに時にグロテスクな色彩を帯びた文章で緻密に描き、同時にエッシャー的構造の小説化を試みる、実験的かつ大胆な驚異のデビュー作!

バタピー食べながら読もうと思って袋を開けたら、最近の健康志向商品の塩気なしのローストピーナッツ! 余計なことすんな! 俺はしょっぱいのが食べたいんだよ! と八つ当たりしたかどうかはわからないけど、
妻を殺した(殺したい)三組の夫婦の物語。


この題名は、デイヴィッド・ぺピンの妻アリスが激しいピーナッツアレルギーを持っているためそれが死に直結していることと、同時に彼女が自分の胎児につけた愛称にもなっている。
その事件を追うサム・シェパード刑事は『逃亡者』のモデルその人。かの妻殺しの事件を再検証しながら、彼自身の人生は事実と全く違う。
もう一人の刑事、ハストロールは自ら寝たきりの選択をした妻のことがまるで理解できず、彼女の死を望む。


『逃亡者』で言うところの片腕の男は、ここではメビウスという小男。彼の名前が示すように、この物語は表裏が捻れ、事実と記述、どちらが先なのか甚だ曖昧。彼の存在自体が、レイヤーの中にいるように見えながら、全ての外側にもいるようにも見える。
作中に出てくるエッシャーの『出会い』のように、虚実は反転し、目で追っていたものは気づけば違うものへとすりかわる。
全てはデイヴィッド・ぺピンの書く小説の中の出来事なのか、それならば彼を追う刑事たちは何を追っているのか、それとも彼らの人生も作中作なのか?


正直、実験的技法はわからなかったんだけど、夫婦の物語自体は面白く、かなりのページターナーぶり。
全体を通して言ってるのは、「あなたが知っているを思っているわたしのことをあなたは全然わかっていない」