The Man from Primrose Lane

プリムローズ・レーンの男〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

プリムローズ・レーンの男〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

プリムローズ・レーンの男 下 (ハヤカワ文庫NV)

プリムローズ・レーンの男 下 (ハヤカワ文庫NV)

『プリムローズ・レーンの男』ジェイムズ・レナー〈ハヤカワNV1321、1322〉

オハイオの田舎町で「プリムローズ・レーンの男」と呼ばれてきた世捨て人が殺された。なぜか一年じゅうミトンをはめていたその老人は、殺害時、すべての指が切り落とされミキサーで粉々にされていた。ノンフィクション作家のデイヴィッドは、編集者にこの事件を調べるよう求められた。愛妻の死後、断筆を続けていたが、この事件には何か特別なものを感じる。作家は調査に乗り出すが、信じがたい事実が次々と明かされ……。
デイヴィッドは「プリムローズ・レーンの男」殺害の第一容疑者として警察にマークされていた。地元のゴシップ紙がそれを報じ、彼は好奇の日に晒される。やがて殺された男と死んだ妻の関係を示唆する証拠が発見されると、デイヴィッドへの疑念はさらに高まった。挙句の果てに、彼は妻の殺害容疑まで着せられて窮地に追いこまれる。だが、あまりに意外な人物が彼の救出に現れるのだ! 怒涛、衝撃、唖然、驚愕! 圧倒的スリラー

題名といい、あらすじといい、普通にサイコ・サスペンスだなぁ、とスルーしてたんだけど、山岸真さんのツイートを見て着手。


一年中ミトンをしている変人、通称「プリムローズ・レーンの男」が遺体となって見つかる。両手の指は切り落とされ、ミキサーで砕かれていた。
妻が自殺して以来、断筆していたノンフィクション作家のデイヴィッドはこの未解決事件の調査に乗り出す。
しかし、彼と妻はどうやら密通していたらしく、さらにはデイヴィッド自身に妻と「プリムローズ・レーンの男」の殺害容疑がかけられてしまう!
そんな中、妻に似た若い女性と出会うが、彼女は幼い時に誘拐されかけ、それを助けてくれたのが「プリムローズ・レーンの男」らしい。さらに、妻もまた、幼いころ、双子の姉が誘拐されていた。いったい何が?


と、中盤までのあらすじ書いても、やっぱ、そこまでの吸引力はないよね。
ただ、三部構成のラストが怒涛の展開!
卓袱台返し的に、乱暴なほどの方向転換! ハシゴを外されるのではなく、エレベーターを突然溶接された感じ。ここで笑う人と怒る人の両極に分かれそうw まぁ、そこまでに、ちょいちょいサイコ・サスペンスらしからぬガジェットが出てきてはいるんだけど。


明らかに、このパズラー構成は好きな人多いと思うけど、被害を最小限に抑えつつ、魅力を伝えるにはどうしたらいいだろう……。◯◯に似てる(いくつか思い浮かぶけど)、という例えは危険極まりないw
チャームポイントを口にすると、同時にそれが小説の魅力を減ずるウィークポイントになってしまうというアンビバレンツ!
帯の惹句を書いてる作家の時点で危うげだし、白背から察しろとしか言えないなぁ。
ダメージ少なそうなオススメポイントを強いてあげるなら、ライトセーバー持った蛙男が出てくるところかなぁ。……ダメかw


とにかく、最近のハヤカワNVの傾向として、ジャンルを横断した作品を多く出してくれるので、個人的に青背よりむしろ楽しみにしております。


一気読み確実。オススメ。


以下、完全ネタバレ要注意。




タイムトラベルものはパズル、という性質をよく活かしたサスペンス。


何気なく読み流してしまうような細部や偶然(だと思われたもの)が全て、パズルのピースとしてはまっていく快感は『ユージュアル・サスペクツ*1に近いけど、本作ではそれがカイザー・ソゼの語り(=騙り)ではなく、タイムトラベルに収束されていく。
しかも、親殺しのパラドクスと同一人物の同時存在のお約束をここまでに派手に無視した作品は、直球SFでもあまり見ないかも。変化球だからできるとも言えるけどw 
SFの理屈を、ミステリの文法を用いて語っており、パズルとして絡み合っている。
「彼は誰?」ではなく、「彼は、いったい何時の彼なのか?」


一気読みして、さらに何度か拾い読みして、大体把握。
ただ、ちょいちょい疑問が。


アボーガストがジョー・キングの素性を探っていた理由がよくわからないんだけど。というか、なんでそこに辿りつけたの? 


初代ジョー・キングは、クリッシー・ハインドを助けに来たデイヴィッドということでOK?


「プリムローズ・レーンの男」が注文していた謎の品物も収まり悪いなぁ。蝉の抜け殻とか。


あと、ビーズルが物語としても、ジャンル小説としても、いきなり違うレイヤーをラストで乗せられた感じで落ち着かない。
意図・意思がタイムトラベルを決定づけると語られているけど、彼らを出し抜こうとしている、もしくは歴史を変えさせまいとする純粋な悪の意思が未来から情報を送っているということ?


なんか読み逃してる?
『ミッション:8ミニッツ』*2みたいに、読み終わった人と意見交換したいなぁ。