THE HUMAN CHORD

人間和声 (光文社古典新訳文庫)

人間和声 (光文社古典新訳文庫)

「私の音色は薄緑なの」ヴァイオリンのような甘美な声で娘は言った……。〈勇気と想像力ある秘書求む。当方は隠退した聖職者。テノールの声とヘブライ語の多少の知識が必須〉。謎の求人に応募した主人公が訪ねたのは、人里離れた屋敷だった。そしてそこには美しい娘がいて……。

選ばれた人間の声が和音となり、合一していくさまは、なんともエロティックなものを感じてしまった。そもそも、ヒロインの美しい声色が可視化されている時点で、スケール氏の人間和声理論の術中にはまっている。


「真の名を呼ぶことによって、その力を我が物にする」ネタは、よく見かけるオカルトガジェットだけど、その名前の正しい音節ずつに人間を当てはめ、それぞれが発声して和音を奏でる、というのはあまり見かけない。
その「音」の支配による幻視や肉体の変容は美しくも、グロテスク。
古代より人間の知識から正しい発声が失われ、その名を呼ぼうとしているものの正体は予想がつくものの、存在感は圧倒的で、神々しいと言うよりも異形で、宇宙が振動し、そこに現れる色彩はまさにコズミック・ホラー。