Daniel Keyes−Collected Stories

心の鏡 (ダニエル・キイス文庫)

心の鏡 (ダニエル・キイス文庫)

キイスって、『アルジャーノンに花束を*1しか読んだことないなぁ、というわけで着手。

 収録作品
・「エルモにおまかせ」The Trouble With Elmo
・「限りなき慈悲」The Quality of Mercy
・「ロウエル教授の生活と意見」A Jury of the Peers
・「アルジャーノンに花束を」Flowers of Algernon
・「心の鏡」Crazy Maro
・「呪縛」The Spellbinder
・「ママ人形」Mama's Girl

青背で出ていてもおかしくない、いや青背で出ているべき短篇集。
まぁ、ダニエル・キイス文庫というレーベルのお陰で、50年以上前に書かれたSFが多数収められた(しかも、少なくとも1作は間違い無く傑作)短篇集が今も普通に買える。
これが青背だったら、とっくに目録落ち……


愚痴はさておき。


やはり、語るべきは中篇版「アルジャーノンに花束を
アシモフの『どうすれば、あんなのが書けるんだ?』の問に対して、「ねえ、どうしてあんなのが書けたかわかったら、教えてくれないか?もう一度、あんなのが書きたいんだ」というエピソードは有名。
中篇でヒューゴー賞、長篇でネビュラ賞を受賞した稀有(まだ唯一?)な作品。


わかってても、ラストは涙腺に来ますよ。というか、前半のみんなにからかわれていることに気づいていない時点で危険水位。
長篇版が全体的にキャラクター造形が深くなり、特に衰えて(もうネタバレでいいよね?)行く過程が非常に練りこまれているため、極めて叙情的。
それに対して、こちらは天才になる過程とその逆の描写が、実験記録のように端的で描写が早いため、よりSF的に感じる。
パン屋に勤めている記憶だったんだけど、中篇はでかい工場なのね。詳しい人間に言わせると、パン屋のほうが現実味があるとのこと。また、IQ68という設定と、作中の描写にかなり隔たりがあるとか。
まぁ、50年以上前の作品だし、科学考証と物語の面白さは別物ということ。特にこの作品は、それが瑕にはならないし。


残念ながら、他の作品はそんなに面白く無いんだよなぁ。「エルモにおまかせ」「限りなき慈悲」「ロウエル教授の生活と意見」は超コンピュータが人間以上になってしまうという、時代を感じさせるSF。「エルモにおまかせ」は『アフター0』の「幸福の叛乱」*2の原型か?


また、前書きに少し書かれているビリー・ミリガンとのやり取りは、今読むと、キイスが理想としていた精神病者が目の前に現れてくれた、という印象が拭えない。キイスの方がミリガンの手のひらの上で遊ばれていた感じ。まさしく、ミリガンはキイスの「心の鏡」だったのかなぁ。


未読の方は「アルジャーノンに花束を」だけでもオススメ。長篇しか読んでない人も、読み比べてみると面白いと思う。