DER NEBELKONIG

霧の王

霧の王

孤児のサリーはとある館の下働き。館はあまりに大きく、いったい部屋がいくつあるのかわからないほどで、サリーは外の世界をまったく知らない。ある日サリーは、侍従が開く晩餐会の給仕をすることになった。着飾った客、贅を尽くした料理の数々。だが、その晩餐会はなにかがおかしかった。食後のカードゲームの最中、サリーの目の前で次々とプレーヤーが殺される。これは現実、それとも悪夢? 地下に棲む奇妙な少年、叡智の龍と霧の王の不思議な物語、サリーに近づく灰色の男……。混乱するサリーに追い打ちをかけるように、奇妙な出来事が周囲で起こり始める。この館には怖ろしい秘密が隠されていたのだ。

無数の部屋が連なる巨大な屋敷、そのまた巨大な図書室で過ごすのが好きな下働きの少女、彼女にしか読めない本、惨劇と化す晩餐会、地下に住む少年、現実とも作り話とも判然としない物語……と、そそられるガジェットが盛り沢山。
それらをとっちらからずに、手堅いファンタジーとしてまとめあげている筆力は確か。ただ、手堅いがゆえに驚きが少ない。


前触れ無くその姿が明かされる司書や死んでも何事もなく存在する人々、幻の世界で幸せなサリーの生活、鼠の王の臣下など、この手のファンタジーらしからぬ、リアルとフィクション、正気と狂気のゆらぎがかなり魅力的なんだけど、ちょっと掘り下げが浅く、それがもっと読みたいんだけどなぁ。


また、舞台である巨大な館も、外の世界を認識できないほどの存在感はないんだよね。
舞台の重厚感と、夢うつつが判然としない展開をもっと描いて欲しかったんだけど、そこが惜しい。YAということもあるのかなぁ。


ただ、物語の吸引力は強く、定期的に謎が投下され、最後まで飽きさせずに読ませてくれる。