BONESHAKER
ボーンシェイカー ぜんまい仕掛けの都市 (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: シェリー・プリースト,市田泉
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/05/10
- メディア: 文庫
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ブライアはライフルとガスマスクを手に、閉ざされた街へ降り立った一息子を救えるのはあたししかいない! 掘削用ドリルマシン〈ボーンシェイカー〉が暴走し地下の毒ガスが噴出、シアトルの街は見境なく人間を襲う〈腐れ人〉が駿屈する地獄と化し、高い壁で閉鎖された。ブライアは、消えた父を追って街へ入った息子ジークを救うため、自らも壁の内側にむかう……。ネオ・スチームパンクの旗手によるローカス賞受賞作!
う〜ん。
ヒューゴーはまだしも、ネビュラもノミネートかぁ……
キャプションに「ネオ・スチームパンク」とあるように、『ディファレンス・エンジン』*1やブレイロック、パワーズの頃とは変わって、SFのサブジャンルではなく、一つの大きなジャンルと化しているのが現在のスチームパンク。
現在のそれはスチーム(蒸気機関)が出てこなくてもOKで、雑な言い方すれば、雰囲気先行のジャンルと言って差し支えないと思う。
実は、それが非常にネックであると、気付かされてしまった作品。その辺についてはまた後ほど。
この作品には魅力的(だと思われる)二つのガジェットがある。
一つはもちろんスチームパンク。
そして、もう一つが魔界都市と化したシアトル。
この二つの求心力が非常に弱い。後者から語るなら、隔絶された箱庭小説の醍醐味はニュー・クロブゾン*2でも〈新宿〉*3でも、住みたくはないけど禍々しい魅力があり、おっかなびっくりその路地を歩けることなんだよね。ところが、この作品にはそういう感じがまるでない。ほとんど地下が舞台ということもあるのかもしれないけど、その情景もあまり思い浮かべられないんだよなぁ。
また、ガジェットもスチームパンクらしく飛行船がメインの乗り物なんだけど、物語が地下で行われるから存在感ないし、この世界を作り上げたドリルマシンも存在感が薄い。地上に上がれないからこそ、蒸気ジェットモグラが発達していた19世紀が見たかったなぁ。
加えて、物語の推進力もなんか弱い。
主人公母子にどうも感情移入できず、悪役もイマイチ面白味に欠けるからなのか、そこにエネルギーが生まれず、先に進むパワーが弱い。スワックハマーやルーシーなど、いつもなら好きになりそうな脇役もなんか精彩を欠く。
ゾンビも印象薄いしなぁ。十数年も経ってるのに、なんでいっぱいいるの? 腐らないの?
推進力も求心力もないため、かなり読むのに苦労した。
シリーズとして4巻まで出てるみたいだけど、訳されてもどうすっかなぁ。
で、気づいてしまったわけですよ。
スチームパンクの欺瞞に。
上記したように、現在のスチームパンクはスチームが出てこなくても、ヴィクトリア朝時代(かそれに準ずる世界)、バッスル、からくり……とガジェットと雰囲気が揃っていれば広義のスチームパンクとして認められている。その中では、あれは違う、これは仲間、と論争が繰り広げられているそうな。その点は、あれも仲間、これも仲間というSFとは違うね(笑)
そう。SFでないというのが重要で、見た目はテクノロジー至上主義的なのに、中身はファンタジーなんだよね。
最初からファンタジーだと思ってればよかったんだけど、なまじメカメカしいから、騙されてました。
確かに、おもしろメカは出てくるけど、当時としてはオーバーテクノロジーにもかかわらす、その説明はない。それはファンタジーに対する魔法と一緒で、「スチームパンクだから!」という免罪符を掲げて、説明を回避しているだけ。
誰かが作ったメカが出てくるなら、架空理論で構わないんだから、フィクションとしてのリアリティがほしいんだよね。そう考えちゃうのは、SF脳を切り替えられないからなんだけどね。『ねじまき少女』*4は確かにSFですよ(あれもスチームパンクと唱える派もあるみたい)
ファンタジーの魔法は受け入れてるのに、スチームパンクが引っかかっちゃうのは、まだ成熟の伸びしろがあるということだとも言えるかもしれないけど。
ガジェットか物語に魅力があればなぁ。きちんと楽しく騙し通してよ(笑)
ヴィジュアルイメージとしてのスチームパンク*5は今も好きなんだけど、物語としては今後楽しめるか自信がない。『ベヒモス ―クラーケンと潜水艦―』が今から不安。
今月のSFマガジン*6読んだら、また違うかもしれないけど。
そういう、蒙を啓かしてくれたという意味ではオススメ。