Expedition to the Mountains of the Moon

月の山脈と世界の終わり〈上〉 (大英帝国蒸気奇譚3) (創元海外SF叢書)

月の山脈と世界の終わり〈上〉 (大英帝国蒸気奇譚3) (創元海外SF叢書)

月の山脈と世界の終わり〈下〉 (大英帝国蒸気奇譚3) (創元海外SF叢書)

月の山脈と世界の終わり〈下〉 (大英帝国蒸気奇譚3) (創元海外SF叢書)

『月の山脈と世界の終わり』マーク・ホダー〈創元海外SF叢書〉

1863年、バートンは時間と精神を操る力を持つ伝説の黒ダイヤを独占せよとの密命を受け、新鋭飛行船で〈月の山脈〉探索に向かう。一方1914年、世界終末戦争の戦場で目覚めた記憶喪失の男は、従軍記者H・G・ウェルズとともに、ドイツ軍の異形の動植物兵器が徘徊する最前線をさまよう。二つの時間線の関係は? 人類の滅亡は防げるのか? 最悪の時空パラドックスの真相は? ディック賞受賞の時間SF三部作完結編!
19世紀のバートンが〈月の山脈〉を目指す一方、世界終末戦争のさなかの20世紀では、フリードリッヒ・ニーチェのドイツ軍とアレイスター・クロウリーの英国軍の最終決戦が始まろうとしていた。二つの時間線が交わるとき、すべての真相が明らかに――怪人「バネ足ジャック」が引き起こした時間パラドックスは、人類滅亡の危機だけでなく時空構造の致命的な歪みをも招いていたのだ。悲劇を阻止すべく、バートンがくだす決断とは?

大英帝国蒸気奇譚〉三部作最終巻。


3つの時間軸が重なったシーンから幕が開く。


はじめの方で、バートンが、前作までのあらすじをわかりやすく、且つ詳しく説明してくれるので、ここから読んでも大丈夫かもしれないけど、話はずっとつなっがているので、やはり第一部から読むことをオススメ。


物語は、1863年のアフリカ行と1914年のアフリカを舞台にした大戦を行き来する。
1863年のバートンは黒ダイヤを発見できるのか!? なぜ、彼は1914年に現れたのか!? 二つの時間軸に双方向にクリフ・ハンガーしながら推進力となって、アフリカ奥地に収斂しながら一気読み。


一〜三部作という物理的にも、また作中の50年間の空白という時間的にも、変貌して再登場するキャラクターたちも楽しい。特に、元婚約者のイザベルは魅力的。この彼女が、晩年あんなことをするようには見えないよなぁ。


以前にも書いたけど、スチームパンクの最大の不満は、作品のレゾンデートルとも言えるガジェットのオーバーテクノロジー
まぁ、スチームパンクはもはやファンタジーなんで、魔法と同義だと思えばいいんだろうけどね。
ところが、このシリーズは、そのオーバーテクノロジーに理由があるんだよね。ここまではっきり出てくるのは珍しいんじゃないかな? ただ、それがあるからこそ、もはやスチームパンクガジェットはやりたい放題w


リヴァイアサン〉三部作*1同様、イギリスとドイツの異形の戦争なんだけど、〈ダーウィニスト〉と〈クランカー〉が逆といった感じ。イギリスはメカを駆使し、ドイツは変容した植物兵器を操る。
どちらにせよ、全く違うテクノロジーを発達させた二派、というのは欧米では納得しやすい設定なのかな? まぁ、現実にタンクと毒ガスか。


人間を文字どおり植物化してしまう毒や吸血植物、植物戦車に飛行船。それと同時に、ニーチェvs.クロウリーの超人大戦。
ウェルズが目にする、人も獣も大地までも蹂躙し尽くす地獄絵図はまさに「World of the War」


これまでに登場したバートンの仲間たちがそれぞれ活躍するのは、三部作の集大成的ではあるんだけど、その世界最終戦争を阻止するため、あってはならない世界線を修正するために、彼らがとる行動は揃って自己犠牲。
そして、バートンの決断は……


三部作はこれで終わりだけど、新三部作が始まっているらしい。
次は、すべての世界線を見通している彼が敵なのかな? ビートルの正体もそっちで語られるのか?
世界線のバートンが集結して欲しい気もw
というわけで、やはり「失われた第二十一章」*2は別の世界線のエピソードでした。