THE STRANGE AFFAIR OF SPRING HEELED JACK

バネ足ジャックと時空の罠〈上〉 (大英帝国蒸気奇譚1) (創元海外SF叢書)

バネ足ジャックと時空の罠〈上〉 (大英帝国蒸気奇譚1) (創元海外SF叢書)

バネ足ジャックと時空の罠〈下〉 (大英帝国蒸気奇譚1) (創元海外SF叢書)

バネ足ジャックと時空の罠〈下〉 (大英帝国蒸気奇譚1) (創元海外SF叢書)

『バネ足ジャックと時空の罠』マーク・ホダー〈創元海外SF叢書5、6〉

蒸気機関や遺伝学が著しく発達した、19世紀大英帝国。蒸気馬車が疾走し改造生物がゆきかうロンドンで、王室直属の密偵となった天才探検家バートンは親友の詩人スウィンバーンとともに、帝都を騒がす人狼たちを追う。だが、虚空に現れては忽然と消える謎の怪人「バネ足ジャック」は、そのバートンをなぜか敵視する。彼がバートンや少女たちを襲う理由とは? 伊藤計劃を抑えて2010年度ディック賞を受賞した快作スチームパンク
バートンをたびたび襲撃しては、奇妙な言葉を残してゆく怪人バネ足ジャック。歴史を変えた21年前の重大暗殺事件とジャックの関わりとは? 一方、スウィンバーンは人狼たちに襲われて絶体絶命に。ジャックや人狼たちの背後には、ヴィクトリア朝大英帝国を揺るがすマッドサイエンティストたちの陰謀があった。バートンたちは新発明の数々を駆使し、ついに敵の総本山に乗りこむ! 傑作スチームパンク/ネオ・ヴィクトリアンSF。

大英帝国蒸気奇譚〉第一巻。


元は、「◯◯の存在によって改変された世界」というSFのサブジャンルとして始まったスチームパンクは、超進化しながら、一大ジャンルに育ち、もはや、それはファンタジーに近い存在になった。今では、「ガジェット先行のジャンルで、物語は後からついてくる」という持論に変更はないんだけど、やっぱ話が面白い方がいいに決まってるよね。


個人的には「ジャンル先行」と「ファンタジーに近い」はニアイコールだと思ってる。要するに理屈なく、オーバーテクノロジーのガジェットが存在していて、魅力的なガジェットが用意出来たならば、小説として成立してしまう、と言っちゃうのは乱暴かw ただ、それだと、正直飽きる。


今作の上手い(好感度な)部分は、スチームパンクガジェットが前面に出て物語を覆い隠してしまうのではなく(今思えば〈リヴァイアサン〉三部作*1はこの傾向が強い)、ガジェットは道具でしかない。携帯電話の代わりに伝達インコ、車の代わりにローターチェアーが飛び交う。ガジェットそのもが物語の推進力になるのではなく、主人公はそれを利用して、謎を追うことになる。
そもそも、冒頭は地理協会の講演で始まり、なかなかスチームパンクらしさは登場しない。
それが、第一章のラストで、「気送チューブ」なるアイテムがさり気なく、しかし、印象的に登場して、変容したヴィクトア朝ロンドンが幕を開ける。
ここまでがアバンタイトル


本来なら、領事として各地に赴任するはずのリチャード・フランシス・バートンが国王の密偵となり、怪人バネ足ジャックと謎の人狼事件の追うことになる。
とろで、Wikipediaで見たんだけど、この人はリアルに漫画みたいな人なのね。この世界では、アラビアン・ナイトは訳されることはないのかな?


最初は、バートンの007ばりの活躍と、完全にショッカー軍団なヴィクトリアンたち、いいアクセントになってるスチームパンクガジェットで楽しめる。ミエヴィルの〈バス=ラグ〉にちょっと雰囲気似てるかも。しかし、バネ足ジャックのパートになってからの加速度と狂いっぷりが半端ない。


比較的おとなしめなスチームパンク世界と、超越観測者的台詞を残すバネ足ジャックがちゃんと噛みあうのかなぁ、なんて心配は杞憂。
彼の存在は物語の推進力であると同時に、舞台設定の原動力。
19世紀のオーバーテクノロジーの理由がしっかりと書かれているのが、他のスチームパンクと一線を画し、しかもそれは狂った悪夢のようなSF!
バネ足ジャックをSFとして成立させるためのスチームパンクなのか、この世界観を成立させるためのSFなのか……


このSF成分がなかったら、普通のスチームパンクとして片付けたと思うけど、これが非常に作品を特異なものにしている。
2巻以降、バートンがあり得たかもしれない人生を意識し続けていくのか、気になるところ。
ビートルは続刊にも出てきてほしいなぁ。


すぐに続刊も訳されるようなので楽しみ。