KRAKEN

クラーケン(上) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(上) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(下) (ハヤカワ文庫SF)

クラーケン(下) (ハヤカワ文庫SF)

現代のロンドン。自然史博物館でキュレーターを務めるビリー・ハロウは、人気の巨大ダイオウイカの標本を担当していた。ある日、ガイドとして客を引率していたビリーは、奇怪な光景を目にする。ダイオウイカの標本が水槽ごと消失していたのだ! 戸惑うビリーに接触してきたのは、《原理主義者およびセクト関連犯罪捜査班》と称する魔術担当の刑事たちだった。現代SF界の旗手が描くノンストップ・エンターテインメント
忽然と消えたダイオウイカの標本を求めてロンドンを彷徨うビリー・ハロウは、クラーケン神教会に保護される。ダイオウイカは伝説の海獣クラーケンの正体とも言われる巨大頭足類で、世界の終末のキーとなる存在としてあがめられていた。ビリーは、ダイオウイカを担当していたがために、複数のカルト勢力から付け狙われることとなる。SF/ミステリ/伝奇など、さまざまな小説の魅力が凝縮されたジャンルミックス・ノベル

あとがきでも触れてるけど、どうしたって、このタイミングで刊行したと勘ぐっちゃうよね(笑)


みんな大好きダイオウイカからスタートし、これでもかと投入される秘密結社に魔術師たち。
ダイオウイカ信者、なんでも折りたたむ折紙使い、トレッキーのテレポーター、使い魔たちの元締め、喋る刺青、頭が拳になった暴力団、海の代理人、ロンドンマンサー……
うをっ!  バカだ!(笑)


『都市と都市』*1、『言語都市』*2の執筆の息抜きで書いたらしく、ライトな〈イルミナティ*3という趣。みんな陰謀好きなら、〈イルミナティ〉三部作読もうよ。
物語の構成要素は『ペルディード・ストリート・ステーション』*4、『アンランダン』*5や「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」*6などで見られるような手慣れたもので積み上げられ、使い魔のストは政治活動もするミエヴィルらしく、無数に出てくる秘密結社は中二的で楽しそう。


ロンドンを舞台に、秘密結社・魔術結社が入り乱れての陰謀劇、と書くとジャンルものでは珍しくない。でも、この作品では、息抜きというのが作用しているのか、普通では知ることのできない裏の世界での出来事ではなく、単に我々が彼らの存在に気づいてないだけ、という軽さがある。それは、街ですれ違った人を認識できないレベルで、わかってさえいれば、彼らに出会うのは容易。ここでは、ネオナチも魔術師も、異質さでは同列。
設定こそは現代のロンドンだけど、内容的にはスペオペかエピック・ファンタジー(もしくは探偵小説)なので、魔法の説明などがほとんどされず、当たり前のように出てくる。これに違和感を持っちゃう人はいるかもしれないなぁ。


個人的には大いに楽しみました。