I WAS VERMEER

私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件

私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件

ゲッペルスを騙した贋作者として有名なファン・メーヘレンを描いたノンフィクション。

ナチスに協力した売国奴か、一泡吹かせたヒーローか。歴史上最も有名な贋作者の一人となったファン・メーヘレンの栄光と挫折の生涯が、膨大な資料を踏まえ、スピードとスリルに満ちた文体で甦る。

オランダの宝、フェルメールをナチに売ったとして訴えられたメーヘレン。しかし、それは自分が描いたものだと白状しても、誰もそれを信じない。そこで、彼は衆人環視の元、「新たな」フェルメールを描き始める――


贋作者は、金持ちや権力者、お高く止まったインテリを手玉に取る、怪盗ものに通じるものがあって、そこに快哉を送りたくなるんだけど、個人的にはメーヘレンは好きになれないなぁ。
大戦直後で、オランダがナチに苦しめられた背景があるから、当時の国民が彼をヒーローに持ち上げた気持ちはわかるんだけど、結果的にゲッペルスのもとに作品が渡っただけなんだよね。


今までに読んだ贋作者ノンフィクションで共通して言えるのは、画家としてのプライドと美術界への復讐というのが多い。自身の技術と知識を駆使してみたいというのもあって、純粋に金目的というのは意外に少ない。
メーヘレンもまた非常にプライドが高く、美術界への復讐なんだけど、その復讐が評論家の奥さんを寝とって、それで干されたからって、小っちぇなぁ(笑)
不当に非難された自分の技術を認めさせるため、未発見のフェルメールを創り上げ、美術館に展示させることに成功する。先日の『キャンパス』*1の感想と矛盾しちゃうけど、いくら万人を認めさせようとも、彼の作品はフェルメールがいなければ成り立たない影にすぎないんだよね。古びの技法も小賢しさしか感じられない。
メーヘレンは、作品を認めさせた後に、自分の贋作であることを暴露し、美術界をコケにしようとするんだけど、結局、虚飾の栄光を選び、あまつさえ量産して大金を稼いでいく。
また、美術界が自分から騙されにいったという面も否定できない。当時、研究者が求めていたミッシングリンクのような作品を創りだし、それを差し出したのだ。さらに、フェルメール研究の第一人者にまずお墨付きをもらうという手の込みよう。
ただ、人間的魅力がある人物だったのは確かなようだ。さらに、この世に存在しない、全くの贋作を創り出した贋作家というのも他には皆無といって過言でないとか。裁判で、新しいフェルメールを描くシーンはカッコいいのは認めざるをえない(笑)


贋作ものを読んで毎度思うのは、この世に真作なんてあるのか? ということ。
バレた贋作は、出来の悪い贋作にすぎないのだから。