THE FAKE'S PROGRESS

贋作者 (1979年)

贋作者 (1979年)

『贋作者』トム・キーティング〈新潮社〉
以前、テレビで見て、大変気になった事件。名前は忘れたんだけど、記憶にあるキーワードで検索したら、自伝が出ていることがわかり早速着手。

1976年、イギリス美術界を大混乱に陥れたサミュエル・パーマー贋作事件。事の起こりは、オークションの記事に対して、落札されたサミュエル・パーマーは贋作ではないかという投書。調べてみると、同じ女性が複数持ち込んでいた。その女性の身辺を探ると、トム・キーティングという王室の別荘の仕事もしたことがある、ベテラン修復画家と同棲していることがわかる。記者は彼に取材を試みる……

25年間のうちに、様々な画家の作品を2000点以上贋作を描いたというトム・キーティング。
貧しい労働者階級出身の彼は、戦後、美術学校に入るものの、画家や美術教師にはなれず、修復画家となる。ある日、好きな作品を模写していると、雇い主に買い上げられる。しかし、その後サインを入れて、真作として売られていることを知る。過去の巨匠たちは画商に利用されて極貧のうちに死んでいった。そして、今もまた、画商たちは彼らを利用して金を稼いでいる。復讐してやる! 画商の信頼を失墜させるため、彼は贋作を描き始める。
元から勉強好きで凝り性の彼は、画材や技法をオリジナルに合わせた。それと同時に、専門家へのヒントとして、一部をわざと適当に描いたり、おかしな色を塗った。また、古いカンバスに描かれた絵は塗りつぶさず、そこにコーティングした上で、贋作を描いた。そうすれば、数十年で崩落が始まり、自分の贋作は世に残らない。
彼はほとんどの作品をあげたり、安く売り、あくまで模写だと断ってから譲っていたらしい。ただ、オークションだけは専門家との知恵比べと捉え、何も言わずに持ち込んだとか。
この手の自伝にありがちな、ホントかよ? という面白エピソード満載なんだけど、実際にテレビで見て、個人的に超お気に入りなのが、カンバスに鉛で「It's Fake」と書いてから、絵を描いたこと。そうすれば、レントゲンで撮れば、一目で贋作とわかるわけだ。カッコよすぎ。たぶん、『ギャラリーフェイク』のモデルの一つだと思うんだよね。


自伝が書かれたのが、ホントに事件の直後で、本もそこで終わっているんだけど、彼は後に詐欺罪で告訴。しかし、騙されたことも、贋作と知ってて買い入れていることも詮索されたくない美術界は沈黙。結果、無罪となる。
その後、テレビで絵画番組(ボブみたいなの?)をやって人気者に。
さらに、彼が描いた絵の贋作まで登場する始末。


贋作者って、なんか惹かれちゃうんだよねぇ。けっして正しいことではないんだけど。
そんな人にはオススメ。
ファン・メーヘレン関係のも読みたいな。