BANVARD'S FOLLY: Thirteen Tales of Peole Who Didn't Change the World

バンヴァードの阿房宮: 世界を変えなかった十三人

バンヴァードの阿房宮: 世界を変えなかった十三人

『バンヴァードの阿房宮  世界を変えなかった十三人』ポール・コリンズ〈白水社

19世紀にミシシッピ川流域の風景を描いた巨大パノラマ画でアメリカ、ヨーロッパを巡業、巨万の富と名声を得ながら今日まったく忘れられた画家、新発見のシェイクスピア劇の上演で大騒動を巻き起こした贋作者、トンデモ学説の元祖〈地球空洞説〉の提唱者、驚異の新放射線?N線?を発見した物理学者、でたらめの台湾語と奇怪な逸話満載の『台湾誌』でロンドン社交界の寵児となった金髪の偽台湾人、幻のニューヨーク空圧式地下鉄計画の推進者などが次々登場。壮大な夢と傑出した才能をもちながら、運が悪かったのか、それとも何かが決定的に間違っていたのか、世界を変えることなく忘れられた偉人たちの数奇な人生を紹介したポートレート集。

一世風靡しながら歴史に残らなかった、ということで記憶に残っている偉人たちのポートレート集。


中坊の頃(今もだけど好きだけど)に澁澤龍彦種村季弘荒俣宏とか読んでた人間には直球ですよw


800メートルものミシシッピ川のパノラマで大人気だった画家。
父に認められたくてシェイクスピアの贋作を量産し続ける青年。
空洞地球の入口を見つけたという元軍人。
生体放射線"N線"を見つけた物理学者。
普遍的な音楽言語を発明し、世界中の人々と話すことを夢見た男。
アメリカで今も食べられているジャムのブドウを広めた男。
ロンドン社交界に現れた偽台湾人。
チューブの中を走る空圧式地下鉄。
英米で爆発的な人気を誇ったにもかかわらず、今では誰も覚えていない詩人。
エクストリームなロミオを演じたカリブの青年。
万病に効く青色ガラスを発見した男。
シェイクスピアの正体を解明するため、墓を暴こうとした才女。
宇宙は生命であふれていると語った男。


歴史に残らなかったのだから、もちろん現在でも全く人口に膾炙していない。知られていないから、彼らの唱える説は珍妙で突拍子もなく、悪く言えば負け犬に過ぎない。
しかし、だからといって、彼らの人生をも否定することは許されない。
ちょっと意外だったのは、世のため人のためになろうとした人が多い。サルマナザールも挙げられているんで、カリオストロみたいな山師ばかりのイメージだったんだよね。
そのサルマナザールについても、『台湾誌』に纏わる話はさんざん読んできたけど、ホントの聖人みたいな晩年を迎えたとか知らなかったよ。
圧倒的な純粋さと熱意で、理想と幸福を追求し、しかし、自説自体の間違いや時流、または純粋さそのもののせいで世界を変えることなく消えていく。志は間違っていないだけに、世間から忘れられていくさまはもの寂しい。


この中では、音楽言語を発明したジャン-フランソワ・シュドルと、ニューヨーク空圧地下鉄を敷設しようとしたアルフレッド・イーライ・ビーチは、本当に歴史をちょっと変える寸前にいた。
音階を指の位置に対応させれば、目が見えない人間と耳が聞こえない人間が会話できるという、この豊かな世界!
空圧地下鉄は、反対派の工作で二回否決され、三回目で可決された時は金融危機で実現できなかったというタイミング。もしかしたら、みんなが大好きなチューブの中を列車が駆け巡る時間線があったかもしれない。


19世紀頃の話が多く、科学・医学の新発見や興味が増大し、現在につながるキーポイントだったからこそ、珍説も多く生まれたんだけど、N線の騒動は完全にSTAP細胞と同じで、とても馬鹿にできない。


バンヴァードのミシシッピ川のパノラマは、それほど巨大なのに一枚も現存していないところに、消耗品たる、現代に通じるものを感じる。ところで、これ、ラファティの「大河の千の岸辺」*1のモデル?


ちなみに、バーナムとポーはちょいちょい顔を出す。あんたら、ホントによく見るなw(空洞地球論のエピソードのラストは上手いなぁ)
また、話の枕で紹介されるにすぎないんだけど、フォルサス伯爵の蔵書騒動は行動原理が理解出来るだけに痛みと爆笑に襲われる。このエピソードだけの本が読みたいくらい。