OTHER KINGDOMS

闇の王国 (ハヤカワ文庫NV)

闇の王国 (ハヤカワ文庫NV)

私の名はアーサー・ブラック。これまでに二十七冊の〈ミッドナイト〉シリーズをはじめ、三十年以上にわたって多くの作品を書いてきた。金を稼ぐために。そしていま、八十二歳になったいま、私がまだ本名のアレックス・ホワイトを名乗っていた十八歳の頃の経験を記そう。これは実際にあった話だ。信じがたい、とてつもない恐怖の数々が記されているが、何から何までが事実なのだ……伝説の巨匠が満を持して放つ、最新長篇

マシスンの半自伝的長篇。


あらすじは、平たくいえば、戦傷によって除隊した主人公が、田舎の村で妖精や魔女に見舞われる怪異譚。
舞台こそは20世紀だけど、あちら側の世界に行くことに対する代償は厳しく、お伽話などのように原ファンタジー的。


しかし、注目すべきはそのストーリーではなく、八十二歳の主人公が十八歳の頃を回想するという構造。
しかも視点は十八歳に定まって物語が展開するのではなく、行動に対して八十二歳の自分がツッコミを入れたり、若い頃の思考のはずなのに、今の考えが混ざっていたり。さらに、記憶違いや執筆メモ的なコメントがそのまま。やたらと韻やスペルの話がしつこい(笑)
60年前の経験を回想する時点で十分に信用出来ない語り手なんだけど、それに加えて校正前の原稿のようなスタイルが輪をかけて怪しい。


アレックスが、本当に妖精や魔女と過ごしたかはわからないんだよね。
妖精にもらった金塊やエメラルドは残ってないし、彼が向こう側に行っていた証拠もない。小さな村で、激しい三角関係を引き起こし、そこから逃れてきたとも読める。彼が出会う怪異は、戦争のトラウマかも知れない。
いや、その真意を確かめることは無意味で、これはマシスンの半自伝的小説であると同時に、アーサー・ブラックの半自伝的小説という、入れ子(?)構造になっている。
視点をどこに置くかで、見え方が変わってくる。読んでるうちに、マシスンの視点ということは忘れちゃうんだけど。
普通にオーソドックスなフェアリーテイルとして、スムースに読むこともできる。