FAR NORTH

極北

極北

アーサー・C・クラーク賞候補作ということで着手。

文明の残骸、絶望と飢餓――極寒の地で命をつなぎ、最果ての迷宮に足を踏み入れた私は……英国新鋭の壮大にして異色の長篇小説。

ザ・ロード*1や『隔離小屋』*2に似たタイプのポスト・アポカリプトもの。一つの未来史(無理矢理)とみるならば、時代的にはその両者の間かな?
『ストーカー』*3リスペクト小説でもある。


これらの作品に共通して言えることは、ロードノベルということと、世界破滅の原因が描かれていないこと。
この二つは噛み合わせがいい。ロードノベルという性質上、一人称にしやすい。それは事態の当事者でも
ない限り、破滅の原因を語る必然性はないし、そもそも主人公が原因を知っている必要さえない。これは便利な逃げとも言えるかもしれないけど、その分、過酷な破滅後の生活を個人の視点で描ける。
旅を続けて行く間に、破滅の断片が顕になっていくという、物語に推進力を得ることもできる。


また、一人称という語りは、読者と主人公の見えているものが、実は違うという構造を仕掛けやすいものだけど、この作品ではそれがかなり効果的に使われている。
しかも、それが更に残酷な運命が待っていそうなサスペンスと、ラストで救いを与えてくれる。


物語はサバイバル描写と次々に変わる状況に翻弄される主人公が描かれている。孤独だが安定した生活を捨て、旅に出る理由に説得力とある種のワンダーがあり、それによって見舞われる苦境が物語を動かすと同時に、断片的ながら世界の様子を少しずつ明らかにしてくれる。


『極北』という題名通り、前述した2作品と違い、雪に覆われたロシアの大地が舞台。文明が崩壊し、なおかつ寒さとなれば、その厳しさは容易に想像できる。しかし、この題名は、指すべき方向、向かうべき運命、どんな状況でも人間は希望を抱くべきで、抱いてもいいという優しさを秘めている。