LAVINIA

ラウィーニア

ラウィーニア

『SFが読みたい!』*1でランクインしていたから気になってたんだけど、『オデュッセイアの失われた書』*2を読んだので、続けて着手。

イタリアのラティウムの王女ラウィーニアは、礼拝のために訪れた一族の聖地アルブネアの森で、はるか後代の詩人ウェルギリウスの生き霊に出会う。そして、トロイア戦争の英雄アエネーアスの妻となる運命を告げられる――

ル=グィンを読むのは久々だけど、やっぱ上手いなぁ。
派手さは全くないんだけど、じっくり読んでしまう。


アエネーイス*3における戦争の原因でありながら、ほとんど記述のないラウィーニアが主人公。
彼女は『アエネーイス』の作者であるウェルギリウスの生霊と出会い、自身が物語中の人物ということを知る。その前提を始め、彼女がどこで誰に対して物語を語っているのか? という展開から、メタな構造であることがわかる。
そういうキャラクターは、斜に構えたり、達観しそうなものだけど、しかし、彼女は自分が作中人物であるということを知ったが故に、さらに、自分がほとんど『アエネーイス』で語られていないキャラクターだと知ったが故に、精一杯人生を豊かにしようとするように見える。
これは、けっしてメタフィクションに限った話ではないんだよね。我々自身にも当てはまる話で、なんのために生まれ、なんのために生きる、という命題ににもつながる。それを知ってなお、豊かに人生を送れるのか?


アーサー王ここに眠る』*4が神話が形作られていく様子を描いたものならば、こちらは神話が一人の人生として再構成されていく様子がみられる。


しかし、物語はそれだけでなく、メタな部分もしっかりと機能させ、『アエネーイス』の最後シーンが過ぎても、彼女たちの人生は続く。
それまでは、ひじょうに活き活きとした少女として描かれながら、同時に物語(『アエネーイス』)のキャラクターとして物語通りに動くラウィーニア。しかし、物語の完結以降、歴史の行く末を知る彼女は神性化し、少女時代と比べて透明になっていくように見えながら、自分と息子のために今まで以上に力強く物語を作っていく。


物語を語り続けていく限り、人物たちは生き続け、不死の存在となったラウィーニアは語り続けていく……