2009年度掲載翻訳短篇
『S-Fマガジン』の2009年度もおしまい。
翻訳短篇は以下。
- 「ジピと偏執症のソフト」……ニール・スティーヴンスン
- 「キオスク」……ブルース・スターリング
- 「フルーテッド・ガールズ」……パオロ・バチガルピ
- 「暗黒整数」……グレッグ・イーガン
- 「受け継ぐ者」……エリザベス・ベア
- 「フィニステラ」……デイヴィッド・モールズ
- 「無限分割」……ロバート・チャールズ・ウィルスン
- 「よろこびの飛行」……ジョン・スラデック
- 「邪悪の種子」……バリントン・J・ベイリー
- 「神銃(ゴッド・ガン)」……バリントン・J・ベイリー
- 「蟹は試してみなきゃいけない」……バリントン・J・ベイリー
- 「ナーダ」……トマス・M・ディッシュ
- 「ダニーのあたらしいおともだち」……トマス・M・ディッシュ&ジョン・スラデック
- 「ジョイスリン・シュレイジャー物語」……トマス・M・ディッシュ
- 「名高きものども」……クリストファー・ロウ
- 「蝶の国の女王」……ホリー・フィリップス
- 「都市に空いた穴」……リチャード・ボウズ
- 「ローズ・エッグ」……ジェイ・レイク
- 「齢の泉」……ナンシー・クレス
- 「鏡」…… チャイナ・ミエヴィル
- 「ある医学百科事典の一項目」…… チャイナ・ミエヴィル
- 「ジャック」…… チャイナ・ミエヴィル
- 「クリエイター」…… オレグ・オフチンニコフ
- 「祝宴」…… アンドレイ・サロマトフ
- 「太陽からの知らせ」……J・G・バラード
- 「コーラルDの雲の彫刻師」……J・G・バラード
- 「ZODIAC2000」……J・G・バラード
- 「メイ・ウエストの乳房縮小手術」……J・G・バラード
- 「最後の粉挽き職人の物語」…… イアン・R・マクラウド
- 「アボラ山の歌」…… シオドラ・ゴス
- 「図書館と七人の司書」…… エレン・クレイギス
- 「王国への旅」…… M・リッカート
お気に入りは、
・「フルーテッド・ガールズ」……パオロ・バチガルピ
成長を止められ、身体をフルート化された双子の姉妹。彼女たちを改造した女領主は、長年の訓練の末、ついに二人を披露する。しかし、姉のリディアは……
バチガルピの描くディストピア的未来は、グロテスクで魅力的。
この作品も同様で、かつエロティック。全裸の姉妹が、しっかり抱き合いながら、体内にいくつも埋め込まれた楽器に息を吹き込むなんて、読みたくなるでしょ?(笑)
世界の設定はおぼろげにしか見えないんだけど、文字通り身も心も領主に支配された世界、そこから自由を得ようとする少女の決断、短いながら印象的な作品。
バチガルピは短篇集出して欲しいなぁ。
・「暗黒整数」……グレッグ・イーガン
「ルミナス」続編。あれから十年。何事もなく平穏に過ぎていたが、彼方側のサムから侵犯の痕が見つかったという知らせが。一人の研究者が偶然侵してしまったらしい。秘密主義の彼方側にこの情報を知らせるべきか悩むが……
正直、さっぱりわからないんだけど、二つの矛盾する数学世界があって、計算することによって相手にダメージを与えられるバカSFだと思い込んで読むと、かなりワクワクします(笑)
1+1=2! ボカンッ! みたいな(超低レベル)
・「無限分割」……ロバート・チャールズ・ウィルスン
1年前、妻に先立たれた男。ある日、彼女が勤めていた古書店に行ってみると、そこには古いSFのペーパーバックが。それは、若い頃にSFにはまった彼が全く知らない、以下も有名作家の作品ばかりだった。その本について店主に訊くと……
フィニイ的なノスタルジックものかと思いきや、後半は突如ハードSF展開。
これだけ古本屋巡りしてるのに、一度しかお目にかかったことがないレア本の正体はそれだったか……(違う)
『時間封鎖』の答えのヒントのようにも思える短篇だなぁ。
・「蟹は試してみなきゃいけない」……バリントン・J・ベイリー
いつも酒場にたむろして、まだ知らぬ女の子のことを語り合う蟹の青年たち。
メスと交尾できるのは、数千に2〜3匹の確率なのだが、それでも彼らは果敢にアタックする。
コテコテの童貞青春もの。アメリカン・蟹・グラフティもしくはアメリカン・蟹・パイ、といった感じ(笑)
ラストはまたしんみり。
レッド・クラプは赤いシャツのリーゼントに自動脳内変換。
・「鏡」…… チャイナ・ミエヴィル
イマーゴと呼ばれる存在との戦争で廃墟と化したロンドン。
ショールはある計画を持ち、ロンドンを彷徨っていた……
イマーゴやヴァンパイアの正体が秀逸で、その姿が見えてきたときはなかなか興奮。
ショールが襲われない理由がちゃんと消化できないけど。
・「ジャック」…… チャイナ・ミエヴィル
『ペルディード・ストリート・ステーション』に出てくるお祈りジャックのスピンオフ。
グロテスクな世界に、ブラックなオチ。非常に好み。
・「祝宴」…… アンドレイ・サロマトフ
会社が終わり、パーティの容易をする男。
テーブルに食べ物を並べ終わると、箱を開けて……
これもアパートの一室の物語で、パーティの様子は楽しそうなんだけど、それと同時に、ひじょうに孤独感を感じさせる物語。
現在のロシアの状況とか、色々込められているのかもしれないけど、それを無視しても変な話で楽しめた。
・ 「図書館と七人の司書」…… エレン・クレイギス
新しい図書館が作られ、忘れられた図書館内で暮らす七人の司書。
静かに暮らしていたが、ある日、籠に入れられた赤ん坊が捨てられていることに気づく。
ディンシーと名付け、図書館の中で育てていくことにする。
個人的には、「ファンタジーらしいファンタジー」としてはこれが一番好き。
まぁ、図書館が舞台ということもあるんだけど(笑)
ただ、本当に図書館が魔法的存在になっちゃってる描写は、ちょっと残念か。
その他には、「ジピと偏執症のソフト」「ダニーのあたらしいおともだち」「受け継ぐ者」「ある医学百科事典の一項目」「よろこびの飛行」「都市に空いた穴」「クリエイター」「王国への旅」とアタリが多かった印象。
読者賞予想は「暗黒整数」か「蟹は試してみなきゃいけない」かなぁ。「鏡」もいいとこ狙えそう。
個人的には「フルーテッド・ガールズ」が印象深い。
特集的には『2008年度・英米SF受賞作特集』*1『「ベスト2008」上位作家競作』*2『ディッシュ&ベイリー追悼特集』*3『チャイナ・ミエヴィル特集』*4『秋のファンタジイ特集』*5
今年もまた、追悼が多い1年でした。