2010年度掲載翻訳短篇

S-Fマガジン』の2010年度もおしまい。
11月アタマに書くつもりだったのに、すっかり忘れてました。

翻訳短篇は以下。

・「息吹」……テッド・チャン
・「クリスタルの夜」……グレッグ・イーガン
・「スカウトの名誉」……テリー・ビッスン
・「風来」……ジーン・ウルフ
・「カクタス・ダンス」……シオドア・スタージョン
・「秘教の都」……ブルース・スターリング
・「ポータルズ・ノンストップ」……コニー・ウィリス
・「《ドラコ亭夜話》」……ラリイ・ニーヴン
・「凍った旅」……フィリップ・K・ディック
・「明日も明日もその明日も」……カート・ヴォネガット
・「昔には帰れない」……R・A・ラファティ
・「いっしょに生きよう」……ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
・「記憶屋ジョニイ」……ウィリアム・ギブスン
・「フューリー」……アレステア・レナルズ
・「ウィケッドの物語」……ジョン・スコルジー
・「第六ポンプ」……パオロ・バチガルピ
・「炎のミューズ」……ダン・シモンズ
・「アードマン連結体」……ナンシー・クレス
・「マン・イン・ザ・ミラー」……ジェフリー・A・ランディス
・「26モンキーズ、そして時の裂け目」……キジ・ジョンスン
・「光線銃――ある愛の物語」……ジェイムズ・アラン・ガードナー
・「ジェイクをさがして」……チャイナ・ミエヴィル
・「ミサイル・ギャップ」……チャールズ・ストロス
・「細部に宿るもの」……チャイナ・ミエヴィル
・「リッキー・ペレスの最後の誘惑」……ベンジャミン・アダムズ
・「イグザム修道院の冒険」……F・グウィンプレイン・マッキンタイア
・「ショゴス開花」……エリザベス・ベア
・「ハノーヴァーの修復」……ジェフ・ヴァンダーミア
・「愚者の連鎖」……ジェイ・レイク
・「タングルフット――ぜんまい仕掛けの世紀」……シェリー・プリースト
・「砕けたティーカップ――モーリス・ニューベリーの事件簿」……ジョージ・マン
・「信号手」……キース・ロバーツ
・「田園の女王」……R・A・ラファティ
・「ドローデの方程式」……リチャード・グラント
・「このあらしの瞬間」……ロジャー・ゼラズニイ
・「自転車の修繕」……ジェローム・K・ジェローム
・「きみよりもリアルに」……クリストファー・バルザック
・「トウキョウ = マガイ」……ジェニファー・レネア
・「夜来たる」…… アイザック・アシモフ
・「輪廻の蛇」…… ロバート・A・ハインライン
・「オメラスから歩み去る人々」…… アーシュラ・K・ル・グィン
・「鉢の底」…… ジョン・ヴァーリイ
・「ジャッジメント・エンジン」 ……グレッグ・ベア
・「温かい宇宙」 ……デイヴィッド・ブリン
・「手を叩いて歌え」 ……オースン・スコット・カード
・「ジョージと彗星」 ……スティーヴン・バクスター
・「プリンセスに銀の靴を」 ……ジェイムズ・P・ホーガン

お気に入り(再録省く)は、


・「息吹」……テッド・チャン
今年度最大の目玉かなぁ。
短い上に、読む楽しみを損なうのであらすじ書けないなぁ。
奇想的な世界に精密機械のような描写で触感を与え、
短い中に、あらゆるエントロピーの終末を描ききったのは、SFならでは! チャンならでは!


・「クリスタルの夜」……グレッグ・イーガン
最高のコンピュータで、完全なAIを作ることを目指す男。
その中で、神のような視点で進化を促していくが……
題名から連想できるように、嫌な話だなぁ。
ところで、欧米人はカニ好きなのか? 


・「ポータルズ・ノンストップ」……コニー・ウィリス
なんにもない町に仕事の面接にきた男。
退屈していると、そこにバスツアーが。
せっかくなんで参加させて貰うことに。
彼らはジャック・ウィリアムスンというSF作家のファンで、彼にまつわる場所を見て回っているのだが、何か奇妙で……
ラ、ラブコメは興味ないんだから!
ウィリアムスンはほとんど読んでないんで、そこで楽しめなかったのが残念。


・「第六ポンプ」……パオロ・バチガルピ
汚染物質により、少子化と知能の低下が進んだ未来。
下水を処理するポンプが故障し……
バチガルピの描く世界は陰鬱で、ホントに鬱な気分になる。
来年には短編集出してほしいなぁ。


・「マン・イン・ザ・ミラー」……ジェフリー・A・ランディス
アナログ誌読者賞ノヴェレット部門
採鉱にやってきた惑星上に、異星人が作ったと思われる巨大な凹面鏡を発見。
一人でそれを見に行った男が滑り落ちてしまう。
摩擦がゼロに近く、這い出ることは不可能。
道具はなく、無線も届かず、生命維持装置も長くは保たない。
脱出する方法は?
「日の下を歩いて」*1タイプの、宇宙サバイバルもの。
数少ない持ち物の中から、知恵を絞って脱出する話は、シンプルなんだけど、やはりワクワクするね。


・「26モンキーズ、そして時の裂け目」……キジ・ジョンスン
世界幻想文学大賞短篇部門
1ドルで、26匹の猿とショー一式を譲り受けた女性。
サルたちは、バスタブの中に飛び込んでそのまま消えるという芸を見せていたが、どこに行っているのかわからない。
風変わりであろうとも、家族、居場所、帰る場所は温かい。
キジ・ジョンスンの描く動物はかわいいなぁ。
ラストのお猿の仕草が目に浮かぶ。


・「光線銃――ある愛の物語」……ジェイムズ・アラン・ガードナー
シオドア・スタージョン
森に落ちてきた光線銃を拾った少年。
彼はヒーローとなるべく、体を鍛え、勉強するようになる。
しかし、恋人が出来て、訓練もおろそかに。
彼女に秘密を明かそうか、お気に入りの場所に連れてきたが……
青春レーザーブラスト!
女性への不信、意固地な自分ルール、陰謀論気味な想像……童貞気質のオタク男子はいろんな意味で悶えますよ。
光線銃がある限り、結婚も子供も持てない、という悟りは、オタクなら誰もが脳内に常駐させてるでしょう。
個人的今年度ベスト。


・「ジェイクをさがして」「細部に宿るもの」……チャイナ・ミエヴィル
短編集*2所収。
ミエヴィルの短編集は今年の収穫。


・「ミサイル・ギャップ」……チャールズ・ストロス
冷戦構造まっただ中、ある日突然世界は、超巨大なディスク上に何者かによって移植される。
その上でも対立している米ソ。
そこで彼らが発見した事実は!?
ストロス版『ディスクワールド』*3もしくは『10月1日では遅すぎる』*4
すぐに長篇化出来そうな程、ガジェットがてんこ盛り。
味は『残虐行為記録保管所』*5や「コールダー・ウォー」*6に似てるかな。
ストロスは宇宙に出ちゃうより、こちらの政治とあちらの異物をシャッフルすることによって起きる混沌の方が面白いなぁ。オタク好きする小ネタも生き生きしてるし。
ラシュモア山が傑作。


・「ショゴス開花」……エリザベス・ベア
謎に包まれたショゴスの生態を調べに来た黒人教授。
誰も死んだショゴスを見たことがないのだ。
一方、ヨーロッパではナチスによるユダヤ人迫害が起きており……
クトゥルフモンスターガイド』*7的な架空博物学の体裁を取りつつ、教授とショゴスの由来を重ね合わせ、ラストは(おそらく)狂気に飲み込まれる。
エリザベス・ベアは今のところ短篇の方が断然面白いなぁ。


・「きみよりもリアルに」……クリストファー・バルザック
父の仕事で日本の茨城に越してきたイライジャ。
退屈な日々を送っているが、ふと一人で池袋に向かう。
そこで不思議な女の子と出会う。
相変わらず「SF?」という作品だけど、バルザックの作品は好きだなぁ。
日本の描写は正確なんだけど、角度が違うというか、そう見えるのね、という感じが面白い。
でも、着ぐるみの女の子は見たことないなぁ(笑)


今年は再録が多かった1年。
再録では、「記憶屋ジョニイ」はやっぱ好き。オレはモリイの嫁(笑)
あと、「信号手」はいいよねぇ。


特集では、『創刊50周年記念特大号PART・I 海外SF篇』*8『2009年度・英米SF受賞作特集』*9スチームパンク・リローデッド』*10浅倉久志追悼』*11『ハヤカワ文庫SF40周年記念特集 PART・1』*12『ハヤカワ文庫SF40周年記念特集 PART・2』*13と読み応えが多い号が多かった印象。創刊50周年、ハヤカワ文庫SF40周年と重なった1年でした。


あっ、1、2月号って鏡合わせだったのね。色だけだと思ってた。