THE GREAT SHAKESPEAR FRAUD

シェイクスピア贋作事件』パトリシア・ピアス〈白水社〉読了

1794年、17歳のヘンリーはシェイクスピアの直筆文書を発見する。蒐集家の父、サミュエルは大喜び。ヘンリーは偶然知り合ったH氏という紳士からもらったという。その後毎日のように、手紙、脚本、書き込みのある書物などが発見され、当時の著名人を巻き込んで、一大センセーションを巻き起こす。そして、ついには未発表劇『ヴォーティガン』までもが現れる。しかし、その全てはヘンリーによる贋作だったのだ……

嘘をついた男』ほど苛烈ではないんだけど、これまた、嘘みたいな嘘つきのノンフィクション。
同じく、どうしてすぐに贋作だと気づいてあげなかったんだろう、と思う。当時、信じると署名したのは、有名な学者ばかりか、王族さえも含まれていた。どんどん話は大きくなり、『ヴォーティガン』上演で事態は最悪にして、最高潮を迎える。
紙や透かしなどは古いものを使っているんだけど、内容は、歴史的におかしかったり、奇妙なスペルをつかっていたり、で明らかにおかしい。それをなんで信じてしまったのか?
18世紀末は、シェイクスピア熱が信仰に匹敵するまで高まりながら、シェイクスピア学がまるで育っておらず、シェイクスピアの新発見を信じたいという気運が渦巻いていた時代。
この事件が特異なのは、ヘンリーは金のためではなく、いつも自分を軽く見ていた父から愛され、喜ばせがたいために贋作を量産したというところ。しかも、作れもしないシェイクスピアの絵画を今度もらってくるとか言っちゃうんだよな〜。ナポレオン・ダイナマイトみたい(笑)。おまけに、誰からも愚鈍だと思われていたから、告白してからも彼が作ったとは思われず、サミュエルが黒幕だと世間は思い込む。彼は最期まで本物だと言い続ける。もしかしたら、彼は贋作だと気づいていたようにも思える。
H氏から父への手紙もヘンリーが書くんだけど、これまた痛々しい。
本当は、サミュエルを初めとしたシェイクスピア信仰者を小馬鹿にするための、悪意の贋作だったのではなかろうか、とも思ったんだけど、父から愛されたかったという言葉はずっと出てくるんだよね。
でも、結局それを得ることはできない。


事件自体は2年ほどの話。
しかし、その後のヘンリーの人生もなかなか激動。