THE KNOWN WORLD

地図になかった世界 (エクス・リブリス)

地図になかった世界 (エクス・リブリス)

舞台は南北戦争以前のヴァージニア州マンチェスター郡。黒人の農場主ヘンリーはかつて、郡一番の名士であるロビンズに、両親とともに所有される奴隷だった。少年の頃、ロビンズの馬丁として献身的な働きをしたヘンリーは、いつしかロビンズから実の息子とも変わらないほどの愛情を受けるようになる。ヘンリー の父オーガスタスは、金をこつこつと貯め、苦労して一家全員の自由を買い取ったが、大人になったヘンリーは、みずから黒人奴隷のモーゼズを購入することで 両親と決別してしまう。だがそのとき、大農園の主となったヘンリーが急逝する。若き妻ひとりと数十名の奴隷たちが残された農園のなか、「主人」と「奴隷」 の関係にしだいに波紋が生じはじめる……。

時間かかった〜。
でも、決して退屈なわけではなく、むしろ濃密な時空間を堪能させてもらった。


まず、黒人奴隷を所有する黒人農場主という事実にショックを受ける。
そのショックを和らげるかのように、百人以上の奴隷を有する白人農場主は、(当時としては)黒人に寛容。
しかし、奴隷が存在する時点で人権を損なっているのだから、その世界が良いはずがないんだよね。
そこにあるのは様々な不条理と暴力。しかし、この作品の見所はそこではない。


ストーリーは自体は複雑ではないんだけど、そこに記されているものは、まさに神の視点からの情景。
時間の流れを一方通行の線だとすると、神の視点では、過去も未来も、空間さえも等価という縦軸を加えた立体的な物語世界を作り上げている。
そのため、普通に話を追っているはずが、突然そこで語られているキャラクターの生い立ちや末期、全く違う場所での出来事が同時に描かれる。
また、公文書らしきものや、関係のない奇妙なエピソードなども挟まれるが、それさえもメインのストーリーと同等のピースとして、黒人が黒人を所有していたという、あまり知られていない歴史空間を構成している。


時空間が行ったり来たりで、なかなか読み進められないんだけど、その行き来が織機のシャトルのようにだんだんと地図を織り上げ、気づけばラストに地図が広がっている。