REASONS TO BE CHEERFUL and Other Stories

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

『ベストSF2003』2位、
『しあわせの理由』グレッグ・イーガン〈ハヤカワSF〉読了。


昔、『宇宙消失』を読んで、どうもはまれなくて、
たまに短篇を読む以外には敬遠してた作家。
しかし、21世紀のSF読みとしては、チャンと並んで読まねばなるまい、
と重い手を上げた次第。

収録作品
『適切な愛』
『闇の中へ』
『愛撫』
『道徳的ウイルス学者』
『移相夢』
チェルノブイリの聖母』
『ボーダー・ガード』
『血をわけた姉妹』
『しあわせの理由』


まず、全体的な感想としては、個人的にはチャンの方が好きかなぁ。
こちらの方がガジェットはSFっぽいんだけどね。
ただ、チャンのインタビューにあった、
哲学者の思考実験を科学で説明できる作家、という表現には何となく頷けた。


お気に入りは、


・『適切な愛』
事故で身体が滅茶苦茶になった夫。
彼らの加入していた保険はクローンを培養して、脳移植をする手術もカバーされていた。
しかし、クローンの身体が成長するには2年かかる。
それまで身体を保存する費用までは賄われない。
そこで新しい技術が生まれたのだが、それは脳だけを取り出して、妻の支給で保存するというものだった……
結構生理的に薄気味悪い話。
クローンを作り、そこに脳を移植するというのは、正しい間違ってる、という問題ではない、ということ。
それが納得出来るのか出来ないのか。
・『道徳的ウイルス学者』
天才的なウィルス学者。
彼は狂信的なキリスト教信者でもあった。
彼は一夫一婦制を尊び、同性愛や多数との肉体関係を一掃するウィルスを作りだし、
それをばらまいたが……
ちょっと『12モンキーズ』っぽいかも。違うか。
ラストが結構好き。
・『ボーダー・ガード』
人格をデータ化し、無限の広さを持つ仮想世界に人類が住むようになった未来。
ジャミルは久々に量子サッカーの試合に出ると、
そこに物凄い腕前の女性がいることに気づく。
彼女のことが気になる。
その正体は……
ヴィジョン的には一番SFっぽいかも。
『マトリクス』の原型?
ラストもわかりやすかった。ただ、量子サッカーは何やってるかさっぱりわからない。
・『しあわせの理由』
マークは子供の時の脳腫瘍の手術に伴って、喜びなどのシナプスがすべてなくなってしまった。
鬱状態となって18年。
その彼のもとに新療法がある、と連絡が来る。
それは、同年代の4000人の男性の脳から抽出された平均的な脳神経を培養し、
それを植え込むというものだった。
見事、感情が戻ったマーク。
しかし、すべてのものが好ましく感じられてしまう。
4000人もの嗜好が集まれば、ほとんど普遍的にものがよく感じられてしまうためらしい。
これでは、個性が存在しない。
システムを切ってくれと頼むが、もう一つ方法があると聞かされ……
なんか見覚えあると思ってたら、『20世紀SF』で読んだのか。
しあわせなんて人それぞれ、基本的には彼と変わる所がない。
それでも彼は悩み、そして最後には自分がしあわせである理由を見つけられるのだろうか?
表題作だけあって、かなり日本人好みかも。


読んでおいて損はない一冊。 
チャンと比べるのもいいかも。