STORY OF YOUR LIFE AND OTHERS

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

ここんところ、短編集ばかり読んでるけど、
全部、奇想小説というくくりのものばかり。


で、今回は、先日、ベスト１にも選ばれたＳＦの真打ち登場！


『あなたの人生の物語』テッド・チャン〈ハヤカワSF〉読了。


・『バビロンの塔』
天まで届くバベルの塔。
そこにエラム人とエジプト人の石工が呼ばれ、天の天井に穴を開けることになる。
何ヶ月もかけ、月よりも、太陽よりも上に塔を登っていく。
そして、頂上に着き……
なんかあらすじだとファンタジーみたいだけど、
その世界でのテクノロジーに立脚して生活が描かれているから、
立派にＳＦなのかな？
塔での生活がスペースコロニーみたい。　
・『理解』
植物状態になってしまった男。
彼は新薬によって目覚めたが、同時に知能が飛躍的に上がっていた。
どんどん頭が良くなり、その知能は人間を遥かに越える。
そして、彼が目指すものは……
『アルジャーノンに花束を』系の作品。
『90年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)』にも載ってたから読んでるんだけど、
やはりラストの戦いが何やってるかよくわからない。
でも、好きだけど。
・『ゼロで割る』
あらゆる数字はそれ以外のあらゆる数字と等しい、ということを証明してしまった女性数学者。
それによって彼女の精神は平衡を失い始める。　
・『あなたの人生の物語』
ある日、地球にやってきた宇宙人。
彼らと通話するために呼ばれた言語学者。
それ学んでいくうちに、彼らの目的が……
あらすじだけだと、ごく普通のＳＦだけど……これ以上は言えねぇ！
物凄いものを読まされた気分。
これだけでも読むべし！　
・『七十二文字』
ホムンクルスとゴーレム技術によって発展しているヴィクトリア朝のイギリス。
ストラットンはゴーレムを動かす為の言葉を作り出す天才命名師だ。
ある日、彼は生物学者でもあるフィールドハースト伯爵に呼ばれる。
彼によると、人類はあと５世代で子供が産まれなくなり、滅びるというのだ。
そこで、人間に成長する言葉を見つけ、
それを卵子に刻んで人類滅亡を防ごうというのだ。
もしも魔法が科学の代わりに、というファンタジーはよくあるけど、
ここまでちゃんとした技術として立脚しているものはなかなかないんじゃないかと。
ゴーレム技術のは昔思いついて書こうと思ったことあるんですけど、
先を越されたか（笑）
・『人類科学の進化』
超知能を持った新人類に対する、旧人類達の意見。
『ネイチャー』に載ったショートショートのため、記事のような文体。
・『地獄とは神の不在なり』
天使が実際に降臨するだけで、あとはここと変わらぬ世界。
ニールは天使の降臨による災害で妻を亡くした。
彼は神を呪ったが、妻は天国に召されたという。
そのためには、彼も信仰心を取り戻し、天国に行かねば妻とは再会できない。
そこで彼は、天使が現れる際の天の光を浴びようとする。
それを浴びれば無条件で天国行きが約束されるのだ。
彼は聖地に向かう。
去年『ＳＦマガジン』で読んだ短篇じゃ、一番強烈だった作品。
神の愛を正義と置き換えて読むと、
アメリカはこういう考えで戦争をくり返すのかなぁ、と思ってみたり。
・『顔の美醜について――ドキュメンタリー』
美醜を判断する脳の部分を麻痺させ、
差別をなくそうとする大学の校則の是非を巡るインタビュー形式の小説。
これも、アルジャーノンものの変形なのかな？


現在のＳＦ読みなら、チャンとイーガンは必読なんだろうな。
（イーガン読んでないけど……）


全ての短篇が一級品。
特に『バビロンの塔』と『あなたの人生の物語』と『地獄とは神の不在なり』のビジョンは強烈。
是非読むべき。
しかも、今のところ、これがチャンの全作品。
古本なんかで探さず、新刊でも損はなし！