THE CURIOUS CASE OF THE CLOCKWORK MAN

ねじまき男と機械の心〈上〉 (大英帝国蒸気奇譚2) (創元海外SF叢書)

ねじまき男と機械の心〈上〉 (大英帝国蒸気奇譚2) (創元海外SF叢書)

ねじまき男と機械の心〈下〉 (大英帝国蒸気奇譚2) (創元海外SF叢書)

ねじまき男と機械の心〈下〉 (大英帝国蒸気奇譚2) (創元海外SF叢書)

『ねじまき男と機械の心』マーク・ホダー〈創元海外SF叢書〉

蒸気馬車や羽ばたき飛行機だけでなく、巨大改変生物に蒸気機関を搭載した多脚機械まで現れ、ますます本来の歴史から逸脱してゆく1862年の大英帝国。深夜の帝都に現れた機械人間の騒ぎの陰で盗まれた黒ダイヤ〈ナーガの目〉――世界中に伝承が散らばるこの宝石は、天才科学者バベッジが求める特異な力を秘めていた。その力は、歴史を歪めたかの怪人「バネ足ジャック」とも関わるという……傑作スチームパンク×時間SF!
死んだはずの貴族を自称する奇怪な男は、超常的な力で下層大衆の不満を煽り、死霊や死者をも操ってロンドンを革命の瀬戸際に追いこむ。この科学の時代にオカルトが猛威を振るう裏には、〈ナーガの目〉が秘める絶大な力と、それを狙う意外な人物の姿が。バートンは歴史に歪みをもたらした壮大な時空の謎に迫る……蒸気機関や改変生物により大変貌したもうひとつの19世紀を舞台にした、傑作ネオ・ヴィクトリアン時間SF! 

バートン&スウィンバーンの〈大英帝国蒸気奇譚〉第二巻。
今回は、伝言オウムとハーバート・スペンサーが全て持って行きますw


バネ足ジャックとは別の事件に立ち向かう物語だけど、前作と密接にリンクしているので、ここから読むことはオススメできません。
というか、三部作で一つの物語と考えるべきなのかな?


巨大昆虫を使ったバス、ロボ執事、怪奇植物に覆われたアイルランド、それに加えて、ロンドンを襲うゾンビ軍団! と前にも増して、何でもあり感が過剰になっている。


好きか嫌いかなら、スチームパンクは好きなんだけど、強い不満がある。
蒸気機関で飛行機械やコンピューターを動かすならいいんだけど、現代科学でも作り出せていないものが、ヴィクトリア朝に存在しているのが、どうにも違和感を覚えてしまう。
作者がサービスを提供すればするほど、ガジェットは現実離れしていく。
まぁ、SFとして読んじゃうのが間違いなわけで、今のスチームパンクはファンタジーってことはわかってるんだけど。


今作はそれに輪をかけ、〈ナーガの目〉という絶大な力を秘めた宝石まで登場。
ますます、「実在しないじゃん……」とうつろな目に。


ところが!
〈ナーガの目〉がシリーズを通しての根幹になるアイテムで、これを引っこ抜いちゃうと、この物語世界が崩壊してしまう。
これがあるからこそ、歴史は歪んでしまうんだけど、それでありえない技術も発明されてしまったのかも、と拡大解釈も可能になっている。
スチームパンクとしては珍しく、ヴィクトリア朝以降の、その世界線で時間が進んだ20世紀も幻視される。
『バネ足ジャック』*1の終盤同様、物語の基盤が時間SFになっているところが、他のスチームパンク作品と一線を画している。


歪みはどんどん増し、バートンは元の世界に戻せるか? というのがシリーズの肝になっていくのかな。
シャーロック・ホームズヴィクトリア朝の怪人たち 2』*2所収の「失われた第二十一章」は別の世界線の物語なんじゃないかなぁ。第三部を読まないと断言できないけど。