SEX ON THE MOON

『月を盗んだ男 NASA史上最大の盗難事件』ベン・メズリック東京創元社

ジョンソン宇宙センターの研修生、サド・ロバーツ。彼は2002年に、NASAが保管する“アポロ計画で月から採取した石”を盗み出してしまう。物理学、地質学、人類学を専攻、ユタ州立大学天文ソサエティを創設、ロシア語と日本語を習得した優秀な学生だったはずの彼が、なぜそんな事件を引き起こしたのか? どうやって厳重な警備を突破したのか? FBIはどのように彼を追いつめたのか? 信じがたい事件の真相に迫る傑作ノンフィクションノベル!

「君に、お月様をプレゼントするよ」


なんて台詞があるロマンスが存在するのかどうかは知らないけど、これはホントにそれを実行した男を描いたノンフィクション。


NASAには持ち帰られた月の石がある。
各国の研究機関から試料貸出の問い合わせがあり、実験が終わって返却された意思は、もはや無菌状態ではないから価値はない。
しかし、NASAにとってはゴミ同然でも、コレクターにとっては垂涎の的であることは間違いない。
研修生サド・ロバーツはそれを売った金を自分のスキルアップに使えば、ひいてはNASAのためにもなる、という超絶屁理屈と新しい彼女にいいところを見せるために盗難計画を実行する。


勉強すればすぐにそれを飲み込み、本来の自分とは違う快活な冒険野郎というペルソナを身に付け、コネのためにNASAのベテラン研究者たちのサークルにも溶けこむ、とかなり才能に溢れた人物であることは間違いないのに、なんでこんなとしちゃったのかなぁ、というのが正直な感想。
読んでも、やはり理解できない。


物語として、それと対を成すのが、ベルギーの鉱物蒐集家エメルマンのパート。
サドは買い手を探すためにあちこちに広告を出すが、基本イタズラだと思われて誰も相手にしない。
しかし、エメルマンだけは何か感じるものがあり連絡をとってみる。そこから海を渡っての大捕り物につながっていく。
彼がいなければ逮捕につながらなかったけど、彼が反応しなければ、盗難事件は起こらなかったかもしれないから、なんとも皮肉なんだけどね。