The Sun and the Moon: The Remarkable True Account of Hoaxers, Showmen, Dueling Journalists, and Lunar Man-Bats in Nineteenth-Century New York

トップ記事は、月に人類発見!―十九世紀、アメリカ新聞戦争

トップ記事は、月に人類発見!―十九世紀、アメリカ新聞戦争

舞台は19世紀前半のアメリカ・ニューヨーク。何百社と新聞社が乱立していた活字メディアの黎明期、アイデアひとつでのし上がった男たちがいた…。新聞『サン(太陽)』紙が興した「月」の大ほら話をめぐり人類の夢と希望を綴った極上の歴史群像劇。「月にコウモリ人間がいた!」というガセネタ記事を書き、一躍時代の寵児となった新聞記者…その記事の影響力を利用し自らの売名と成功に役立てた興行師 P.T.バーナム、そして若き日の小説家 エドガー・アラン・ポー。印刷という当時最先端の技術を駆使し、己のアイデアひとつで世界を牛耳った男たちと、それに熱狂した当時の世界を描く傑作ノンフィクション!!

スクープ! 月に人類発見! しかも、彼らはコウモリのような翼を持っている!?


『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む』*1の作者によるノンフィクション2冊目(原著ではこちらが先)


19世紀前半のニューヨーク。
この頃の新聞は、富裕層をターゲットにした値段の高いものだったが、ベンジャミン・デイが1ペニーの日刊新聞を発行する。その名はサン。
持ちやすい大きさ、センセーショナルな記事で瞬く間に類似新聞が乱立。
そんな中、1835年8月に、リチャード・ロックという記者が「月にコウモリ人間がいた!」という記事を書き、世間を賑わすことに。


19世紀前半、ラジオ、TVはなく、映画もまだ。電話も普及していない。
そんな時代、新聞は唯一の広域情報共有媒体であると同時に、絶大な影響力を持ったエンターテイメントでもあった。この素地があって、のちの『リトル・ニモ』などの豪華でテクニカルな新聞漫画の登場につながるんだけど、それはまた別のお話。


とにかく、このでっち上げに人々は熱中し、他紙も転載するほど。


こんな途方もない法螺話をなんで信じたの? と二世紀後の人間が言っちゃうのは簡単だけど、某作曲家とか、某細胞とかが、本質とは別にドラマ部分で大騒ぎしている状況が今も続いているんだから、マスコミも大衆も、200年間全く変わってないんだよね。


月世界も記事を書いたリチャード・ロックの他に、新聞を活用した主人公といえる人物が二人登場する。
一人が、エドガー・アラン・ポー。彼は、この記事は自分の小説をパクって書かれたと信じて、そのショックで「ハンス・プファールの無類の冒険」*2の続きを断念。
有能な人だったのはわかるけど、ホントに変人だったのね。
もう一人が、興行師のP・T・バーナム。実は彼の話の方が表題よりも面白いんだよなぁ。彼が初めて扱った、ワシントンの乳母をしていたという160歳の黒人女性の顛末は初めから終わりまで人を食ってるし、何より、博物館を買い取るときの担保にした土地は震えが来るほど面白すぎ。
バーナム単品のノンフィクションって訳されてないかしら?
残念なのは、いまいち、この三者が有機的に絡んでる印象が薄いんだよね(それぞれ会ったりしてはいるんだけど)
月世界人というより、20世紀のエンタメの扉を開けた三人の物語、として読んだ方がいいのかも。