暗くて静かでロックな娘

暗くて静かでロックな娘

暗くて静かでロックな娘

ここに人間はいない。愚かで卑しくて貧しい人間達の心ない生態を赤裸々に描いた短編集。前作『他人事』より更に過激に洗練された露悪性は、それが現実的であるがゆえに深い悲しみへ誘う。

喉は焼けるし、確実に身体にも悪いのに、癖になってしまう酒……まさしく、本書のキャラクターたちが手にしているアルコールのような作品集。


胸くそ悪くなるどん底の生活、生理的嫌悪感の極地のような描写、サバト的リズム感ある文体に、自身の良識と出歯亀根性が激しく揺さぶられる。


まぁ、これでもかと不幸と不運が投入される、ホントに酷い物語ばかりなんだけど、そこにあるのは幸せの物語なんだよね。
客観的には悲劇で、主観的にも最低最悪の生活と人生であることには間違いないんだけど、主人公たちはその中での最大限の幸福を求め、感じて、物語から去っていく。
それは、思い出すのも嫌な「おばけの子」でも同様。最後に浮かぶのが、彼女の唯一の幸せの記憶。
それらがあるからこそ、非常に後味は極苦味なんだけれども。