THE INVITATION TO CTHULHU MYTHOS

クトゥルフ神話への招待 ~遊星からの物体X (扶桑社ミステリー)

クトゥルフ神話への招待 ~遊星からの物体X (扶桑社ミステリー)

人類の神のイメージとなった<旧支配者>が太古に地球を征服し、それに準ずる神々も存在した。いまは地下や海底や異次元で眠っているかれらは復活のときを狙っている……。極地で見つかった謎の生物との壮絶な戦いを描いて三度も映画化された名作「遊星からの物体X」。映画『エイリアン』『プロメテウス』の原型にあたる「クトゥルフの呼び声」。さらに「恐怖の橋」「呪われた石碑」「魔女の帰還」などラムジー・キャンベルの未訳中短篇五本を収録した、待望のクトゥルフ神話アンソロジー


 収録作品
・「遊星からの物体X」……J・W・キャンベルJr
・「ヴェールを破るもの」……ラムジー・キャンベル
・「魔女の帰還」……ラムジー・キャンベル
・「呪われた石碑」……ラムジー・キャンベル
・「スタンリー・ブルックの意志」……ラムジー・キャンベル
・「恐怖の橋」……ラムジー・キャンベル
・「クトゥルフの呼び声」……H・P・ラヴクラフト

遊星からの物体X ファーストコンタクト』やるし、意外な形で第○次クトゥルフブーム来てるし、そこに、予定が流れたキャンベルの短篇があるから(邪推しずぎです)、それで一冊作っちゃわね? という闇鍋感がなきにしもあらずなアンソロジー


翻訳短篇も多いし、本国での知名度もある割には、日本での紹介がイマイチなラムジー・キャンベルの初訳作品が5本入ってるのが、好事家にとって目玉かもしれないけど、個人的には、恥ずかしながら今まで未読で来てしまった頭と尻尾の二本が非常に面白かった。


遊星からの物体X」は同名映画*1の原作。
カーペンター版はイマジネーションを広げていると言え、生物を粘液質に分解して吸収してしまうヴィジュアルや、血液での判定方法(このシーン大好き)とか、思いの外、映画は原作通りなのね。
映画は当然観ていても、原作を読んでる人は意外に少なそうなので、それだけでもオススメ。


ジャンルものを読もうが読むまいが、一度は耳にしたことがあるであろう、歴史的作品「クトゥルフの呼び声
実はラヴクラフトは「アウトサイダー*2くらいしか読んだことないんだよね。さすがに固有名詞なんかは知識としてあったんだけど、元祖クトゥルフ神話自体初体験。
今更語るのも何だけど、まだ中立な目(笑)から見た感想として。
得体の知れない神々の出身を異星としちゃうことで、なんとも言えないリアリティとオリジナリティを出すことに成功している。「異星」なんてあやふやすぎて、天国(地獄)と大差ないはずなんだけど、「宇宙から来た」という設定が科学的(現実)と錯覚させ、ファンタジー/ホラー/SFの垣根を曖昧にした独特なものになっている。
その神々はどことも知れない秘境ではなくアメリカ国内で信仰され、その存在を証言するのが山師めいた冒険家ではなく、学者や警官。そこに奇妙な言葉とその解説という民俗学ウソチクで、見てはいけないもの感を補強。
さらに、その全てが手記で、関係者も死んでいるからホントか嘘かわからない。また、語り手(手記の読み手)は異形の秘密を知ってしまったがゆえ、身の危険を感じて終わるけど、それは我々にも振りかかるかもしれない、という構造が、個人的には大変楽しめた。
今読むと、大怪獣的なクトゥルフの描写は、逆に作品の不気味さを損なっているような気もするけど、それはそれで楽しい(笑)
原点を読むと、ダーレスの作品(は読んでる)は、その怪獣部分だけを取り出しちゃってるように見えるなぁ。


それを踏まえると、キャンベルの作品では「恐怖の橋」が面白かったかなぁ。記録に基づいた物語という体裁だし、クライマックスは怪獣対決だし。
どこに続いているのかわからない、地下水路の不気味なヴィジュアルが印象的。
「呪われた石碑」も笑っていいのか、気持ち悪いんだか、結構好き。


個人的には、第二弾が実現するなら、もうちょいいろんな作家が入ってるか、ラヴクラフト作品1本とそれを展開させたテーマアンソロジーが読みたいかな。『インスマス年代記*3みたいだけど。