EL LIENZO

キャンバス

キャンバス

『螺旋』*1の作者による新作。

前代未聞の高額で落札された1枚の名画。しかしその除幕式で絵が披露された瞬間、作者である老画家の表情が一変する。数日後、老画家が息子に明かしたのは驚愕の事実だった……すべての読者の魂を揺さぶる、天成の物語作家の長編小説。

『螺旋』同様、ファーストインプレッションの期待は裏切られ、展開は地味。でも、絵を洗浄するかのように、人生を丁寧に顕にしていく筆致は、最後まで飽きさせずに読ませる。


幾つかのテーマが同時に語られているんだけれども、その一つが絵画(感動)の本質。
芸術は非常に情報の影響が大きい媒体で、プレーンな状態で作品を鑑賞できる人も、機会もなかなかないと思う。美術館に詰めかける人々は、作家の名前、落札値段というニュースを見に来るのだ。それ故に、そのバイアスをものともせず、作品自体から本物の感動を受け取れる贋作があったのなら、それは芸術作品として本物でなかろうか? そして、画家の思いを本当に受けとれる感受性と素養がある人物のもとに作品が届くのが幸せなのではなかろうか?


また、この物語の大きな軸が、画家の目的と絵画の行方。
ラストの解釈は色々あるかも知れないけど、個人的には、最初からの企み通りに事が運んだと思いたい。
少年時代のエピソード、難しい親子愛、芸術の真価、などを考えると、それが洒落たオチだと思うんだよなぁ。