Paradies der falschen voger

詐欺師の楽園 (1968年)

詐欺師の楽園 (1968年)

架空の国を舞台に、架空の大画家のでっちあげを始めとする名画の偽作事件を通してヨーロッパの政治・社会情勢を痛烈に諷刺する。とび切り上等のユーモアとアイロニーあふれる異色作(帯)

キャプションに『痛烈な諷刺』とあるけど、そんな風に構えずとも、『スティング』*1や『麻雀放浪記*2にも通ずる小気味いいコンゲームピカレスクロマンとして純粋に面白い。


語り手のおじで、むしろ主人公とも言えるローベルトが印象的。
架空の画家をでっち上げ、その作品や来歴さえも創るというのは、究極の贋作とも言える完全犯罪。それに酔って国を潤そうと宣い、さらにその贋作まで現れ、事態をコントロールできなくなっていくのも含めて、ローベルトはカームジン*3のよう。
ただ、これって、贋作ノンフィクションを読んだときと同じく、この世に真作なんてあるのか、という戦慄を覚える。バレる贋作は出来の悪い贋作に過ぎず、もし専門家も、鑑定の参考にする作品さえ偽物だったら、もう確かめようがない。
また、真作どうこうではなく、情報と価値さえあれば、一度回り始めた市場は止められない。
それは、語り手が国境紛争に巻き込まれる後半で、その印象は増すことになる。観測者たる読者はそのドタバタを笑えるけど、当事者にとっては違う意味で笑うしかない。


しかし、この手記もまた、何らかの目的のために書かれた偽書かもしれず……