WIDE SARGASSO

広大な館に人しれず幽閉された西インド生れの狂女の哀しい生い立ちと呪われた宿命を南の島の強烈な色彩の中に描く異色作

まず言いたいのは、それなりにレア本なんで、多少安く見つけて喜んでたんだけど、世界文学全集*1で復刊してんじゃん! 読み終わってから気づいたよ! 誰か言ってよ!(笑)


それはさておき。


恐怖映画のモンスターじみた印象しか残さない、とある作品に出てくる狂女の前日譚。
彼女は最初から狂っていたわけでなく普通の少女で、原色の西インド諸島の風景に溶け込むかのように瑞々しく描かれている。
当時の西インドは奴隷解放法以降で、その事実が、主人公にとっては暗い影を落とすことになっている。
その成長した彼女の結婚相手は、明示されていないけど、若きロチェスターであることは明らか。
すなわち、『ジェイン・エア*2でほとんど語られない、ロチェスターの前妻を主人公に据えた物語なのだ。


板挟み且つどちらにもいけない物語。
主人公のアントワネットは、奴隷解放以降の貧しくなった白人支配者階級の出。そのため、彼女は黒人にも白人にも属せない。ヨーロッパに行くことを夢見ながらも西インドを離れることができない。
また、ロチェスターにも拒絶され、様々な事実にがんじがらめになって狂気に陥る彼女がすがれるのは乳母によるブードゥーだけ。
一方のロチェスターも、勝手に決められた結婚をし、愛そうとするが、やはり離れて行ってしまう心情が描かれている。


ジェイン・エア』を読んだ者ならば、損はない一冊。