天来の美酒/消えちゃった

天来の美酒/消えちゃった (光文社古典新訳文庫)

天来の美酒/消えちゃった (光文社古典新訳文庫)

『天来の美酒/消えちゃった』〈光文社古典新訳文庫Aコ4-1〉
コッパードをまとめて読むのは初めて。

 収録作品

  • 「消えちゃった」Gone Away
  • 「天来の美酒」Jove’s Nectar
  • 「ロッキーと差配人」Rocky and the Bailiff
  • 「マーティンじいさん」Old Martin
  • 「ダンキー・フィットロウ」Dunky Fitlow
  • 暦博士」The Almanac Man
  • 「去りし王国の姫君」The Princess of Kingdom Gone
  • 「ソロモンの受難」The Martyrdom of Solomon
  • 「レイヴン牧師」Father Raven
  • 「おそろしい料理人」A Devil of a Cook
  • 「天国の鐘を鳴らせ」Ring the Bells of Heaven

最近の異色短編が生々しい湿度があるのに対して、コッパードはからっとしてる。
一節を引っこ抜いたかのような展開に、一気に足下を引っ張られるような結末。そこには、民話的な大らかさがあるんだけど、同時に当事者にとっては何が起きているのかわからない、という薄気味悪さも併せ持っている。
お気に入りは、
・「消えちゃった」
 車で旅行中の三人。
 なぜか、車のメーターが異様なことに。
 町に到着し、一人が新聞を買いに行ったまま戻らない。
 次いでもう一人も……
 この作品が一番、現代っぽい。
 SFでも、怪奇でもなく、不思議でゾッとする話。
 『世にも奇妙な物語』とかでありそう。


・「天来の美酒」
 屋敷を継いだ男。
 ある日、見知らぬ美女が屋敷を譲って欲しいといってきた。
 彼女に一目惚れした男は食事に誘い、酒を出すが……
 一見、ミステリ風なんだけど、ストーリーは続いているのに、起承転結で主題がバラバラという酔ったような作品。
 いくらでも解釈でき、しかし、その解釈は全てが無意味。


・「マーティンじいさん」
 墓場で最後に埋められた者は、先に埋められた者の召使いになるという。
 嫌われ者が亡くなり、彼が死者からこき使われていると喜んでいたが、
 今度はマーティンじいさんの愛する姪が亡くなってしまった。
 すると、彼女が嫌われ者にいじめられてしまうではないか。
 しかも、墓場は満杯で、もう埋められないという。
 どうすれば……
 民話っぽい短篇。
 じいさんの友達の猟犬番がいい味出してる。 


・「おそろしい料理人」
 腕はいいが、主人以外には気を許さない女料理人。
 夫人さえも罵倒し、ついにはクビを言い渡されてしまう。
 しかし、彼女は出ていきたくないと逆らうが……
 「天来の美酒」と同じく、冒頭、中盤、結末の出来事から、予想される展開に一切ならない。
 ラストの置いてけぼり感は何とも言えない。


一番衝撃的だったのは、巻末の「ジプシー」とか「後家」使用のお断り。ええ〜! フィクションでしょっちゅう目にするけど、お叱り受けちゃう単語だったの!?