ILUSTRADO

イルストラード (エクス・リブリス)

イルストラード (エクス・リブリス)

2002年2月、ニューヨークで活動を続けてきたフィリピン人亡命作家クリスピンが、ハドソン川にて死体で見つかった。彼の書斎からは、近代フィリピンを牛耳ってきた歴代の富と権力の内情を暴いた、執筆中の小説の原稿が消えていた。クリスピンの若き教え子ミゲルは、謎めいた死の真相を解明すべく、母国フィリピンへと旅立つ。師の足跡を追って奔走するミゲルだが、頻発する反政府デモ、テロ、停電、大洪水など事件や惨事がつぎつぎに起こり、師の知人たちとの会見も難航する。しかしそのような困難のなか、やがて、師の人生を追うことの本当の意味に気づきはじめたミゲルは、迷宮を抜けだす道を求めて、飛行機で離島へ向かう……。

主人公ミゲルの一人称の文、クリスピンについての伝記、クリスピンの著作からの引用、インタビュー、ネットの掲示板の書き込み、小噺、神の視点の文章などのパッチワークで構成されている。
関連性がないように見える様々なパーツで描かれているからこそ、フィリピンの歴史、情勢、問題、アメリカの影響など多面的な姿が、一枚の絵として概観できる。


物語は、クリスピンの人生と言動、それと同時に語り手であるミゲルの人生も語られていく。
こちらも最初は無関係に思えうクリスピンとミゲルの人生だけど、フィードバックされるかのように、徐々にその二つの線が重なり合い、ラストにつながっていく。
このラストによって、文中の仕掛けがわかり、フィリピンを描いただけでなく、メタなミステリとしてに構造も明らかになり、ちょっとした驚きが待っている。


叢書内の他の作品と比べるなら、ちょっと『野生の探偵たち』*1と似てるかな。