THE BOX : Button, Button and Other Stories

運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)

運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)

運命のボタンリチャード・マシスン〈ハヤカワNV1213〉
5月公開予定の同名映画原作を含む短篇集。


 収録作品
・「運命のボタン」Button, Button
 ある日、見知らぬ男から、このボタンを押せば、大金がもらえると言われる。
 ただし、見知らぬ誰かが死ぬという……
 なんか読んだような気がしてたら、ローレンス・ブロックの短篇でした(『おかしなことを聞くね』*1所収「あいつが死んだら」)。
 それはさておき、この短篇をどう映画化してるの?
 全く見知らぬ他人なら……というどろどろしたジレンマを膨らましてるのかしら?
 嫌いじゃないんだけど、ちょっと物足りないかなぁ。

 
・「針」Needle in the Heart
 妹の乱れた生活が我慢できない女性。
 ついに、ヴードゥーの呪いで殺すことにするが……
 「狙われた獲物」(『不思議の森のアリス』*2所収)と似たテイストでヴィジュアル的になんか笑える。
 当時、トピックになってきたネタを上手く詰め込んだ感じなのかなぁ。


・「魔女戦線」Witch War
 無邪気な少女たち。
 しかし、彼女たちは、戦争が始まると……


・「わらが匂う」Wet Straw
 寝ていると、どこからともなくわらの匂いが。
 そのうち、本当に納屋にいるような感覚に襲われ、ベッドに入らないようにするが……


・「チャンネル・ゼロ」Through Channels
 ある会話記録。
 刑事が少年に何が起きたか聞いている。
 彼の家族は……
 これは全く古びていない。
 むしろ『クローバーフィールド』や『パラノーマル・アクティヴィティ』的な映像がイメージできる程。
・「戸口に立つ少女」Little Girl Knocking on My Door
 娘と遊びたいとやって来た奇妙な少女。
 特に気にせず、家に通すが……


・「ショック・ウェーヴ」Shock Wave
 調子がおかしい古いパイプオルガン。
 演奏者の意思とは違う動きを……
 バフー! ドカン! 的なラストの情景はなんか笑っちゃうんだよなぁ。


・「帰還」Return
 タイムマシンの実験をしている教授。
 無事500年後に着くが、そこの歴史研究家たちは帰してくれない。
 妊娠した妻が待っているというのに……
 これは上手いなぁ。
 伏線も、SF的考察も回収されるし、オチもラストまで気づかなかった。


・「死の部屋のなかで」Dying Room Only
 ドライブの途中で寄った小汚い食堂。
 妻がトイレから出てくると、夫がいない。
 店主や他の客に聞いても知らないという……
 ひじょうにサスペンスフルな展開としてはベスト。
 ただ、ラストがちょっと弱いかなぁ。


・「小犬」The Puppy
 過保護な母子家庭。
 ある日、部屋の中に小犬が。
 息子は飼いたがるが、神経が細い彼には無理と、捨ててしまう。
 しかし、また現れて……
 なかなか嫌な作品。
 犬が何の具現なのか、深読みするのも面白い。


・「四角い墓場」Steel
 ロボットボクシングが流行っている未来。
 時代遅れのポンコツロボットを抱えるオーナーがやっと取ってきた試合。
 しかし、相手は最新型で、しかも試合直前に壊れてしまう!
 熱い! 
 脳内BGM「ロッキーのテーマ」が流れてましたよ(笑)


・「声なき叫び」Mute
 火事で両親を亡くした少年。
 保安官夫婦に引き取られるが、一言も喋らない。
 実は彼はテレパシーで育てられたのだった。
 この短篇集に限って言うと、誰にも言えず(信じてくれず)、その苦しみが極限に達した末の悲劇、的な作品が多い。
 これは題名からして、その代表的な作品。
 でも、ラストは救済なのかなぁ。


・「二万フィートの悪夢」Nightmare at 20,000 Feet
 飛行機嫌いの神経質な男。
 ふと、窓の外を見ると、翼の上に人影が……
 これは何度も見てるし、読んでるんだけど、傑作だよなぁ。
 個人的には、狂気とカワイソさが同居したジョン・リスゴーの顔が好き(笑)
 オチはどっちもいいけど、映画版*3の方が好みかな。


収録数からも、続「13のショック」という体裁。
センセーショナルで、セクシュアルな最近の異色短編に比べると、そう言う刺激は少ない。ただ、それらを削ぎ落として現れる、まさに「ある日どこかで」見たことがあるような中核となるアイデアは、マシスンやこの辺のトワイライトゾーン系の作品に源が見えるんだよね。
オーソドックス故に、安心してドキドキできるというか(笑)


一通り楽しめるけど、特にお気に入りは、「チャンネル・ゼロ」「帰還」「四角い墓場」「二万フィートの悪夢」あたり。