昨日のように遠い日

昨日のように遠い日―少女少年小説選

昨日のように遠い日―少女少年小説選

『昨日のように遠い日』柴田元幸・編〈文藝春秋
少年少女を主人公(テーマ)にしたアンソロジー

 収録作品

バラエティがあって、なかなか粒ぞろいのアンソロジー
付録の「眠りの国のリトル・ニモ」と「ガソリン・アレー」は折り込みリーフレットなので、確実に手元に置きたい方は、新刊で買った方がベターかと。


お気に入りは、
・「ホルボーン亭」……アルトゥーロ・ヴィヴァンテ
 迫害を逃れ、イギリスに難民としてやって来た一家。
 食事ができるところを探していると、一軒の夢のような食堂が。
 後年、家族の誰もその夜のことは覚えておらず……
 子供(だからこそ)の輝かしい思い出を描いた作品では、これはなかなか苦くて傑作。


・「トルボチュキン教授」……ダニイル・ハルムス
 どんなことでも答えられる天才のトルボチュキン教授が編集部にやってきた。
 しかし、彼はデタラメなことばかり言って……
 これはいろんな読み方ができると思うけど、個人的には不気味に感じてしまった。
 シャーリー・ジャクスン「チャールズ」の多面性に似てるような。


・「おとぎ話」……ダニイル・ハルムス
 おとぎ話を書こうとする男の子。
 しかし、そのたびに「その話はもうある」と女の子に横やりを入れられて……
 この女の子の例に出す話がかなりバイオレンスで笑える。
 そしてラストのメタ構造。
 いや、そもそも幼い日の想像は現実と区別がつかないメタなものか。


・「ある男の子に尋ねました」……ダニイル・ハルムス
 苦い肝油を舐める度にお小遣いがもらえる男の子。
 それが貯まると……
 書かれた時期と国を考えると、深読みしてしまうショートショート
 柴田先生、ダニイル・ハルムスの短篇集を企んでいるのか!?(笑)


・「修道者」……マリリン・マクラフリン
 大人になりたくなく、服装も食事も拒む少女。
 家族から何を言われても、スタイルを変えない。
 夏の間、変わり者とされているおばあちゃんの家に行き……
 これは割と普通の成長もの。


・「パン」……レベッカ・ブラウン
 学校の女子寮。
 そこに憧れと畏怖の対象で、絶大な影響力を持つ生徒がいた。
 朝食のパン、彼女だけの食べ方があった……
 ブラウンは短篇をいくつかしか読んだことないけど、やはり意地悪だなぁ(笑)
 パンが美味そう。


・「謎」……ウォルター・デ・ラ・メア
 おばあさんの屋敷で暮らすことになった7人の子供たち。
 幸せに暮らすが、ある部屋にだけは入るなと言われる……
 アンソロジーの常連だけど初読。
 正体がまるでわからないけど、ひじょうに静かな不気味さが漂う。
 色々と解釈できる作品だよなぁ。
 ちょっと「エミリーの赤い手袋」を思い出した。