SWORDSPOINT

『剣の輪舞〈増補版〉』エレン・カシュナー〈ハヤカワFT465〉
初訳の短篇3編を収録し、増補版として復刊。

都で最強と名高い剣客リチャード・セント・ヴァイヤー。彼は決闘の請負を生業とし、愛人の美青年アレクとともに気ままに暮らしていた。そんなある日、謎の貴族から暗殺の依頼を受ける。同じ頃、ホーン卿からも、彼の誘いを振ったゴッドウィン卿の暗殺を頼まれるが、リチャードがそれを断ると、ホーン卿はアレクを誘拐し、脅迫してきた。リチャードはそれに従うが……

「ホモが嫌いな女子なんかいません!!」(by大野さん)
いやいや、ここで引かないで(笑)


ファンタジーといっても魔物も魔法使いも出てこないし、主人公が剣客でもチャンバラするわけでもなく、最初の方は貴族の名前が覚えられず、“腐”の薫りは漂ってるし(笑)、地味な展開にかなりかったるかったんだけど、後半、剣客同士の決闘が始まり、復讐、そして裁判劇と引き込まれ、ラストまで一気読み。
ひじょうに作り込まれたリチャードだけでなく、隻腕の剣客アップルソープ、恋多きトレモンテーヌ公爵夫人、嫌らしいホーン卿など、それぞれキャラクターが魅力的なんだけど、それ以上に、権謀術策が渦巻き、暗殺、決闘も日常茶飯事ながらも、彼らは己の地位と職に対して強く矜持を持ち、相手が誰であろうとルールは守るべき(それが悪役でも)であり、そして、それを守らなかったときに物語が動き始めるのが見所。また、舞台になっている名前不明の街の雰囲気もいい。
その後を描いた短篇「死神という名前ではなかった剣客」「赤いマント」「公爵の死」も余韻を残しつつ、引き締まっていて楽しめた。
読み終わってみれば、魅力ある剣客を贅沢に狂言回しにした政治家の権力闘争、という骨太な異世界もの。でも、脳内ヴィジョンはやはりよしながふみ(笑)
今後刊行予定の続編も期待。