〈竜のグリオール〉シリーズ

前から読めと言われていた、ルーシャス・シェパードのグリオールにやっと着手。


「竜のグリオールに絵を描いた男」The Man Who Painted Dragon Griaule〈『ジャガー・ハンター』、『80年代SF傑作選(上)』収録〉

山のように巨大な竜グリオール。死んだように動かず、体には木が生え、風景の一部と化しているが、その見えない支配力で付近の人々を常に不安にさせていた。ある日、一人の画家が、毒を混ぜた絵の具でグリオールの体に絵を描き、数十年がかりで竜を殺そうと提案する。その巨大プロジェクトがスタートする。

山と見まごうばかりの巨大な竜、その体に絵を描く画家、さらにはそれによって竜を殺そうとする……眩暈がしそうなヴィジョン。素晴らしい。
グリオールは何をするわけでもなく、描写もあまりないんだけど、その存在感は圧倒的。
竜の大きさが画家の人生を表しているようでもあり、ラストは哀しげ。


「鱗狩人の美しき娘」The Scalehunter's Beautiful Daughter〈『S‐Fマガジン411号』掲載〉

美しいキャサリンは、ある日、強姦されそうになり、その相手を殺してしまう。復讐しようとする彼の姉弟から逃げようと、グリオールの口の中に入ると、そこには一人の老人と、グリオールに寄生するように住む一族がいた。彼らはキャサリンを待っていたというが……

「竜のグリオールに絵を描いた男」のグリオールの巨体が時間を表しているのなら、こちらは世界そのもの。
体内には集落があり、季節があり、固有の生物相が存在している。
グリオールの体内を調査・研究していくキャサリンの姿は、まるで異星探検SFのよう。
胎内回帰、胎内巡りを経たラストも印象的。


「ファーザー・オブ・ストーンズ」The Father of Stones〈『S‐Fマガジン420号』掲載〉

宝石研磨工レイモスが僧侶を殺した容疑で逮捕される。若き弁護士コロレイが引き受けるが、レイモスはグリオールのそばで見つかった宝石に操られたという。グリオール本体からは離れた町だが、そこまで支配力があるのだろうか? 証拠や証人を見つけるたびに、奇妙な事実が現れ……

前2作とはかなり毛色が違う作品。
これまではグリオールの肉体が舞台だったけど、これはグリオールの影響力が主人公。
異世界ミステリとしても面白い。
前2作の登場人物がちょっと登場。


巨大生物の上に人が住んじゃう系(大クジラの上で船乗りが焚き火も可)はホントに好きなんで、それだけでもこのシリーズは大歓迎。
「竜のグリオールに絵を描いた男」だけで完成しちゃってるから、あれ以上世界を広げるのはちょっと蛇足のような気もするんだけど、それでもグリオールはひじょうに魅力的で、他の2作も十分に面白い。
3作は、絵が描かれている時期と重なっていると思うけど、その言及はないから、クロニクルではなく、グリオールを巡ってあり得る物語ってことなのかな?
結局、1冊にまとまって出なかったのね。
他にもあるのか知らないけど、このシリーズは読みたいなぁ。